債務整理

過払い金の時効で問題となる「取引の分断」とは

過払い金の時効で問題となる「取引の分断」とは

払いすぎた利息を貸金業者から取り戻す過払い金返還請求は、取引を終えた時から10年で消滅時効制度によりできなくなります。

10年のカウントが始まる時点は、借りた時や返した時ではなく、借金に関する取引全体を終えた時ですから、10年以上前から借金を返済している人でも、10年以内に支払いを終えた人は、過払い金の請求が可能です。

では、10年以上前に、借金をいったん完済してから、ほどなくして、また同じ業者から借金をしていた人はどうなるのでしょうか。

ここでは、過払い金返還請求で最も重要な問題である「取引の分断」について、その意義や、実際にどのように問題になるのかについて説明します。

1.過払い金返還請求権の消滅時効

いきなり「取引の分断」といわれても、一般の方にはピンとこないことが多いでしょう。

まずは、「取引の分断」を理解するうえで前提となる、過払い金とその消滅時効について簡単に説明します。

(1) 過払い金について

過払い金とは、利息制限法の上限を超える利率にもとづいて、貸金業者などに支払った利息のことです。

かつては、出資法が利息制限法よりも高い利率の利息を取ることを認めているような規定があったために、いわゆる「グレーゾーン金利」で利息を取り立てる貸金業者がほとんどでした。

しかし、2006年に、最高裁判所が、あくまで利息制限法を超える利息は違法であって、支払いすぎた利息は返還請求できると判断しました。

そのため、過払い金返還請求ができるようになったのです。

(2) 過払い金返還請求権の消滅時効

消滅時効とは、一定の時間が経過することで、権利の実現を裁判所に要求できなくなる制度です。

たとえば、交通事故などで問題になる「不法行為に基づく損害賠償請求権」ならば、3年で消滅時効により請求ができなくなってしまいます。

過払い金返還請求権も、権利である以上は消滅時効が問題になります。最高裁は、過払い金返還請求権は、10年で消滅時効にかかり、請求できなくなると判断しました。

また、消滅時効で問題になるのはその期間だけではありません。「起算点」、つまり、いつから消滅時効の期間の計算をするべきかも大きな問題です。

不法行為に基づく損害賠償請求権なら、被害者が損害や加害者を知った時が起算点です。

過払い金返還請求権の消滅時効の起算点について、最高裁判所は、取引が終わった時が起算点となるとしました。よって、過払い金返還請求権は、取引の完了後10年経過すると、消滅時効にかかり、請求ができなくなることになりました。

逆に言えば、何十年も前から借金をしていたとしても、返済し終えたのが10年以内ならば、過払い金返還請求は可能というわけです。

では、借金をいったん完済した後にまた借金をした場合、その完済の時点で取引は終わったことになり、消滅時効のカウントが始まってしまうのでしょうか?

これが、「取引の分断」の問題なのです。

2.「取引の分断」と「一連計算」

(1) 完済時点で取引が終わるとすることの問題点

過払い金返還請求権の消滅時効が、取引が終わった時からカウントされるとすれば、借金を完済した以上は、その時がそれまでの過払い金返還請求権の消滅時効の起算点になるように思えます。

しかし、それでは、グレーゾーン金利がほとんど解消された2006年から10年以上たった現在では、多くの人が過払い金を返還請求できなくなってしまいます。

なにより、消費貸借契約、つまり、借金に関する契約というものは、一定の限度額の枠内で、借金をしては返済し、完済してもまた借金をして…という取引を予定しているものです。

にもかかわらず、借金の完済があったからというだけで、取引そのものも終わってしまったとみなすことは、実態に合致しません。

そこで、過払い金返還請求をしていた弁護士たちが主張し、裁判所もある程度認めている考え方が「一連計算」です。

(2) 一連計算とは

一連計算」とは、借金の完済があったとしても、また借金をするまでの「取引の空白期間」の長さなどの諸事情を考慮することで、完済前後の借金及びその返済に関する取引を一体のものと考えて、取引は終わっていなかったとするものです。

一連計算が認められれば、消滅時効の起算点は、一連計算の対象となった取引全てが終わった時となりますから、消滅時効に過払い金返還請求権がかかってしまう可能性がぐっと少なくなります。

たとえば、グレーゾーン金利がある時代にした借金を11年前にいったん完済し、その1年後にまた借金をしてつい最近完済したというケースを考えてみましょう。

取引が分断されているとされれば、過払い金返還請求権は、完済前には生じている可能性がありますが、時効により請求できません。

また、完済後の借金については、グレーゾーン金利による利息の支払いがありませんから、そもそも、過払い金自体がありません。よって、過払い金は一円も戻ってこないことになります。

一方、一連計算が認められれば、11年前にいったん完済するまでに生じていた過払い金の消滅時効は、つい最近の完済の時からカウントスタートとなりますので、少なくとも、消滅時効が問題となることはありません。

ちなみに、一連計算が認められると、過払い金の金額も、取引が分断された場合よりも高額になります。

払いすぎた利息が借金元本に充当され、利息制限法に基づいて本来払うべき利息が減り、実際に払った利息との差額が広がるためです。

3.取引の空白期間がある場合の問題点やポイント

(1) 取引の空白期間がある場合の問題点

取引期間の空白があると、穏健な業者でも態度が強硬になるために、様々な問題が生じる可能性があります。

過払い金の返還請求の流れは、基本的にまずは貸金業者との和解交渉を行い、それがうまくいかなければ初めて裁判となります。

穏健な貸金業者の中には、最初からこちらの要求を丸呑みしてくれるところがないわけではありませんし、また、過払い金の元本の9割ぐらいを提示してくれるところもあります。

しかしながら、取引期間に空白がある場合、ほとんどの貸金業者は、支払いを拒絶し、または、支払うとしてもせいぜい5,6割しか支払ってくれません。

過払い金を返還請求しようとしている方がそれでよしとするならばともかく、たいていの場合は、裁判で請求しなければ、十分な過払い金が戻ってこなくなります。

裁判になることなどから生じるデメリットは以下のとおりです

①時間がかかる

交渉ならば数か月で返還されることもある過払い金ですが、裁判になると、1年以上かかることもざらになります。

もとから強硬な業者が相手の場合、高等裁判所まで裁判がもつれ込み、さらに長期化することが無いわけではありません。

②弁護士費用が増える

一般的な相場として、弁護士費用の相場は、交渉段階までなら過払い金返還額の20%程度ですが、裁判となると手間がかかりますから、25%程度にまで上昇します。

なお、泉総合法律事務所ならば、裁判でも弁護士費用は交渉段階と同じく据え置きの20%のままです。

③業者が倒産する恐れが高くなる

長く時間がかかると、それだけ、貸金業者が倒産するリスクが高くなります。

貸金業者が倒産した場合、戻ってくる過払い金の金額は、どんなによくても元の金額の10%です。

④過払い金が一切戻ってこない恐れが生じる

裁判ともなると、貸金業者も徹底抗戦します。

後述する通り、取引の空白期間がある場合に、取引の分断があるとされるかどうかは実務上激しく争われ続けており、様々な具体的事情により左右されますので、確実に結果を予測することは、弁護士でも場合によっては簡単ではありません。

そのため、具体的な事情次第では、裁判所が貸金業者の主張を認めてしまい、取引が分断され、完済以前の過払い金返還請求権は消滅時効により請求できないとして、全く過払い金が戻ってこなくなるリスクを頭の片隅に置かなければならないのです。

(2) 取引の空白期間がある場合のポイント

取引の分断が認められてしまうのか、それとも、一連計算を認めてもらえるのかは、様々な事情により決まりますが、主に、

  • 完済前後で契約書が変わっているか
  • 空白期間の長さ

が、問題となります。

まず、完済前後で契約書が変わっていない場合には、空白期間の長さが大きく結論に影響します。目安としては1年を超えるか否かですが、未だ決着が完全についてはいません。

契約書を変わってしまっている場合には、かなり不利になってしまいますが、上記同様期間の長さや、

  • 契約内容がどれだけ変わっているか
  • 完済後にカードが失効・返還されたか

などの、取引に関する非常に具体的な諸事情次第では、契約書が完済前後で異なっていても、一連計算が認められる余地がないわけではありません。

ですから、自分だけでできるかできないか悩まず、取引に関する出来る限り多くの資料を集め、覚えている限りのことを紙に書きだして、弁護士に相談してみてください。

4.過払い金の請求は弁護士に相談を

10年以上前から借金の返済をし続けていて、過払い金がある可能性のある方でも、10年以上前にいったん借金を完済し、取引の空白期間がある方は、場合によっては、過払い金返還請求ができなくなってしまうリスクがあることは確かです。

最終的に過払い金返還がされるとしても、交渉段階ではほとんどの業者が和解額を減額し、裁判になりやすく、貸金業者は徹底的に争ってくるでしょう。

しかし、取引が具体的にどのような場合に分断されてしまうかは、未だに裁判で激しく争われており、どのような結果になるかは非常に流動的です。

また、具体的な事情次第では、完済前後で契約書が変わっていたり、相当の空白期間があったりしても、裁判で過払い金返還請求が認められる可能性がありますし、そこまでいかずとも、貸金業者との和解金の金額を吊り上げることもできるでしょう。

いずれにせよ、この問題は非常に法律知識と実務能力が要求される非常に専門的なものです。取引の空白期間がある方は、過払い金返還請求の経験豊富な弁護士への依頼が不可欠といえます。

泉総合法律事務所川崎支店は、これまで多数の過払い金返還請求について、任意交渉及び裁判双方の豊富な取扱い経験がございます。

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