勤務中の会社が倒産しそう…?従業員の給料・退職金はどうなるのか
借金の原因は、浪費やギャンブル(パチンコなど)だけではありません。
自分ではどうすることもできない理由によって収入を断たれた・減収となった場合でも、生活のためにやむなく借金せざるを得なくなることがあります。
「自分ではどうすることもできない減収・失職理由」の典型例は、「勤務先の倒産」です。
今回は、「『勤務先が倒産しそう』と感じたときにどのように対応すべきか」「会社が倒産したら給料や退職金はどうなるのか」ということについて解説します。
このコラムの目次
1.倒産する会社によく見られる「予兆」
勤務先の倒産は、従業員にとっては生活に直結する重大な出来事です。
しかし、多くのケースでは、従業員の知らないところで計画的に倒産の準備が進められます。あまり早期の段階で従業員(社員)に「倒産する予定があること」を伝えれば、従業員の士気低下・離職によって、仕掛け業務の処理などに多大な影響が出ることもあるからです。
とはいえ、経営破綻する会社には、何かしらの「予兆」があることが多いといえます。
よくいわれる「会社倒産の予兆」となる出来事としては、次のようなものが挙げられます。
- 給料の遅配
支出することがわかっている資金を工面できない状況になっているわけですから、典型的な倒産前の予兆といえます。- 支払期限前の売掛金の回収をはじめる
資金繰りが厳しいことから、支払いの本来の期限前に売掛金の回収を図ることが考えられます。- 経費節約が突如厳しくなる
通常の状況でも、経費の節約は問題になりますが、今まで違い、急に大幅な経費の節約がなされる場合には、経費が捻出するにあたり資金繰りが厳しいのではないかとも考えられます。- 突然管理職が増える
管理職には残業代の支払いが必要ないことから、「残業代を節約」しなければならないほど資金繰りが厳しい可能性があります。- 経理担当者が退職する
会社の資金繰り事情に詳しい地位の人が突然退職したときには、「会社の将来に見切りを付けた」可能性もあります。- 計画性の乏しい新規事業を手がけ始める
「一発逆転」を狙って博打的な事業を仕掛けることもあるかもしれません。- 社長が会社にいないことが増える
金策や、倒産のための資金準備に駆け回っている可能性があります。
とはいえ、上で挙げた「予兆」は、あくまでも「倒産する会社」にはそのような傾向があるということにすぎません。
たとえば、支払い期限前に売掛金を回収していたとしても、勤務先の都合ではなく取引先の都合による場合もあるかもしれません。
たとえ、経営が厳しかったとしても、経営者の資金繰りが功を奏して繋ぎ融資を確保できる場合もあるでしょう。
勤めている会社が倒産しそうと感じたときには、特に慎重な対応が必要です。
「仕事を失い路頭に迷うかもしれない」と不安になる気持ちは理解できますが、拙速な対応をすれば、逆に生活に行き詰まってしまうことにもなりかねません。
勤務先が倒産危機にあると感じたときに、正確な情報に基づかずに行動してしまうことが最も危険です。冷静に状況を確認するようにしましょう。
会社の業績が悪いと思っていたところに経理部長が退職した、というような情報を耳にすれば、「いよいよ終わりか」と不安に感じることが多いでしょう。
しかし、転職先の宛てもなく慌てて自己都合退職することは、あまりお勧めできません。今後の計画もないままに退職してしまっては、転職も難しくなることが少なくないからです。
いまでは、「転職」それ自体は珍しい時代ではなくなりましたが、やはり自己都合退職後の「再就職」は、在職中の転職に比べれば不利なことが多いからです。
失業保険の受給期間中に再就職先が見つからず、生活のために「返せる当てのない借金」をしてしまうケースは珍しくありません。
2.会社が倒産すると給料・退職金はどうなる?
とはいえ、「早く手を打たなければ給料や退職金を受け取れなくなるのではないか?」と心配になる人も多いと思います。
しかし、これから説明するように、会社が倒産したとしても、従業員の給料や退職金が完全になくなるというわけではありません。
(1) 労働債権(賃金)は手厚く保護されている
従業員が倒産した会社に対して、未払いの給料・退職金といった債権を有しているときには、会社の倒産手続きの中で手厚く保護されます。
会社の倒産手続きにおいて、法律上、「労働債権」は最優先で配当される債権として取り扱われるからです。
たとえば、会社の破産手続きにおいて労働債権(未払い賃金)は、次のように取り扱われ、他の債権者への配当の前に確保されます(破産法149条1項・2項)。
- 破産手続き開始前3ヶ月間の未払い賃金は「財団債権」
- 上記より前の未払い賃金は「優先的破産債権」
- 未払い退職金は、退職前3ヶ月間の給料総額までの金額は「財団債権」
- 上記の金額を超える退職金は「優先的破産債権」
「財団債権」は、破産手続きにおいて最も保護の厚い債権です。破産債権の弁済に先立って、破産財団(倒産会社の資産)から随時支払いを受けることができます(破産法151条)。
「優先的破産債権」は、他の破産債権よりも優先的に配当を受けることのできる債権のことです。
したがって、会社に一定の資産があるときには、無担保の借入金や営業上の債務よりも優先して支払いを受けることができます。
なお、会社が倒産した場合でも、破産管財人の業務遂行や仕掛け業務の処理のために、一定の従業員については雇用がしばらく維持される場合もあります。この場合の給料は、破産手続き開始の3か月前から「財団債権」となります。
(2) 未払い賃金は、公的機関に「立替払い」してもらえる
倒産した会社の資産が不足していて労働債権に対する配当ができないときには、未払賃金立替払制度という国の救済制度を利用して未払い賃金の一部(原則として未払い金額の80%)を立て替えてもらうことができます。
なお、この未払賃金立替払い制度の対象となる賃金には、下の表に示す上限額があります。
退職日時点の年齢 |
未払賃金の限度額 (支払われる立替金の上限額) |
---|---|
45歳以上 |
370万円(296万円) |
30歳以上44歳 |
220万円(176万円) |
29歳以下 |
110万円(88万円) |
なお、未払い賃金立替払い制度の対象となるのは、「給料」、「退職金」に限られ、「解雇予告手当」、「ボーナス」、「各種手当て(通勤手当など)」、「未払い賃金に対する遅延損害金」は含まれません。
3.会社倒産後の企業年金の扱い
会社が倒産した場合、「企業年金を受け取れなくなるのでは?」と不安になる方も多いかもしれません。
企業年金は、会社が積み立てた掛金を外部組織が管理しているので、会社が年金の掛金を資金繰りのため使い込む危険性がありません。
会社が倒産しても掛金は無事なので、企業年金が消えてなくなることはなく、受給する権利も維持できます。
しかし問題は受給額です。
年金は掛金を原資として資産運用されていますが、景気の悪化で想定通りの利回りを得られなかったなど、運用がうまく行かないこともあります。また、本来、確定給付年金は、給付額があらかじめ決められていますが、資金運用がうまく行かなかったことによる、積み立て不足を企業が補填できない場合もあります。
その場合は受給額に悪影響が発生し、当初期待していた金額をもらえない可能性が出てきます。
なお、企業年金には「確定給付年金」と「確定拠出年金」がありますが、企業の倒産による減額などの影響が少ないのは、ズバリ「確定拠出年金」の方です。
確定拠出年金は「日本版401k」とも言われる年金ですが、資産運用をする主体が将来の年金受取人であることが特徴です。
運用結果は自己責任というデメリットがありますが、積み上げられた資産は会社ではなく信託銀行等が管理するため、やはり会社の運転資金に使われることはありません。
仮に年金制度自体が廃止された場合でも、積み立てた資産は個人型の年金に引き継がれる仕組みになっています。
引き継がれた年金はそのまま運用することができ、将来の給付も受けられます。
個人で運用リスクを抱えるという欠点はあるものの、会社倒産のリスクに備えるという意味では、確定拠出年金がメリットが大きいと言えるでしょう。
4.まとめ
会社が倒産しそうだと感じたときには、とにかく慎重に対応することが何よりも大切です。
慌てて退職する前に打てる何かしらの手立てのあることの方が多いからです。
それにもかかわらず、万が一、会社が倒産したことが原因で「返せない借金」を抱えてしまった場合には、できるだけ早く弁護士にご相談ください。
借金問題は、借金の金額が少ないうちに対応すれば、デメリットを最小限に抑えて解決することも可能です。
任意整理・個人再生・自己破産という債務整理方法の中から、あなたにとって最適な借金解決方法をご提案できるでしょう。
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