個人再生のメリット・デメリットを自己破産と比較!
個人再生は、支払不能の恐れのある債務者が、裁判所に、最低限支払わなければならない一部の借金についてのみ分割払いすることを認めてもらう(きちんと支払えたときは残りの借金を免除してもらう)債務整理手続です。
一方、同じく裁判所を通じて行なう債務整理手続には、借金を原則として全額免除して貰える自己破産もあります。
このコラムでは、個人再生が、自己破産と比べて、どのようなメリット・デメリットを持つのかを説明します。
このコラムの目次
1.個人再生とは
個人再生では、債務者の借金総額や資産などに応じて、最低限支払わなければならない金額を原則3年(最長5年)で返済すれば、残りの債務は免除されます。
裁判所から再生計画の認可決定を得ることが関門ですが、これが認められれば、債務者は、基本的に、再生計画に従った返済だけをすれば良くなるのです。
最終的に、再生計画に基づく返済を終えることで、残る借金の支払義務からも完全に開放されます。
また、個人再生には「住宅資金特別条項(住宅ローン特則)」という重要な制度があります。
この制度を用いれば、本来、住宅ローン債権者などに抵当権に基づいて処分されてしまうはずのマイホームを、住宅ローンの返済を続けながら維持しつつ、住宅ローン以外の借金は、個人再生手続を利用して減額することが出来ます。
個人再生手続の種類は、一般的に用いられる小規模個人再生と、その例外・特則的手続と言える給与所得者等再生の二つに分かれます。
(1) 小規模個人再生
個人再生手続における原則的な手続であり、実際、個人再生事件の多くの場合(割合的には個人再生事件全体の9割程度)で、こちらの手続が利用されています。
収入の継続性・反復性は必要ですが、給与所得者等再生のような、将来的な収入の定期性・安定性までは要求されず、また、再生計画に基づく返済総額を、給与所得者等再生よりも低く抑えやすいです(制度上、給与所得者等再生を利用した場合よりも返済総額が上がるということは決してありません)。
しかし、手続上、再生債権者による決議が必要とされており、ここで、債権者の頭数の半数以上(債権者数が偶数の場合は丁度半分でもよいことに注意)、または、債権総額の2分の1を超える金額を持つ債権者が反対すると、再生計画が不認可となり、手続が出来なくなります。
(2) 給与所得者等再生
小規模個人再生とは異なり、手続上、債権者による決議が要求されておらず、債権者が手続に反対することが出来ないため、小規模個人再生で否決されてしまった場合や、申立前から小規模個人再生では否決される可能性が高いと予想される場合に利用します。
但し、将来の収入について、継続性・反復性があることに加え、その収入が定期的で変動が少なく、安定していると見込まれなければ利用できません。また、返済総額は、小規模個人再生よりも高額になりがちです。
債務者の立場からすると、小規模個人再生と比較した場合の給与所得者等再生のメリットは、債権者の反対で否決されるリスクがないことぐらいなので、もともと否決されるリスクが低い場合は、敢えて給与所得者等再生を利用する必要性がないため、給与所得者等再生の利用割合は、個人再生事件全体の1割程度にとどまっています。
2.自己破産とは
自己破産は、借金が支払不能となった債務者が、裁判所に申立をして、最低限生活に必要なもの以外の財産を債権者に配当する代わり、公租公課等のごく例外的なものを除き、配当後に残った借金を全額免除して貰う債務整理手続です。
自己破産により債務が免除されることを「免責」と言い、裁判所が免責を決定することを免責許可決定と言います。
自己破産にも、2つの手続の種類があります。
(1) 管財事件
債務者に、債権者へ配当出来る財産や、あるいは、免責が原則許されないとされている事情(免責不許可事由)がある場合には、裁判所は「破産管財人」を選任し、配当手続の処理や免責不許可事由の調査を行なわせます。
このような自己破産の手続を管財事件と言います。
管財事件となった場合には、破産者は、管財予納金の負担が必要になり、また、破産手続が終了するまでの間、郵便物が全て管財人に転送される、転居や旅行に事前の許可が必要となる等の制約を受けることになります。
(2) 同時廃止
債務者に財産がなく、かつ、免責不許可事由も無い場合には、例外的に、破産管財人を選任せず、簡略化した手続である同時廃止(破産手続開始決定と同時に破産手続を廃止する⇒あとは免責の判断だけが残る)という手続が用いられます。
この手続では、費用も簡略化されます。そもそも破産管財人が選任されませんから、当然、管財予納金の負担も発生しません。
管財事件となり得る「免責不許可事由」には、典型的なものだと、ギャンブルや浪費などが原因の借金や、財産隠し、偏頗弁済(特定の債権者のみを対象に行なう不公平な返済)などが挙げられます。
しかし、実際には、免責不許可事由の内容が悪質でなく、しっかりと反省をして、管財人の調査にも真摯に協力すれば、大抵の場合、免責が認められています。
これは、「裁量免責」と言って、たとえ免責不許可事由があっても、裁判所が、債務者の事情一切を考慮して、その裁量によって特別に免責を認める制度が、実務上大きく活用されているためです。
もっとも、2度、3度と破産を重ねている人に関しては、初めて破産する人に比べると、裁判所も管財人も、どうしてもこの部分の判断はシビアにならざるを得ないでしょう。
3.個人再生のメリット(対自己破産)
(1) 財産を処分されることがない
個人再生では、手続上、債権者への財産の配当手続がないため、裁判所により手持ちの財産を処分される恐れがありません。
他方、自己破産では、目安としては時価20万円を超える財産(家、車、解約返戻金のある生命保険、高価なブランド品など)は、債権者への配当の原資に充てるため、原則として、裁判所により換価・処分されてしまいます。
また、個人再生では、抵当権が付いているマイホームでも、住宅資金特別条項を利用して住宅ローンの約定返済を続けることにより、住宅ローン債権者によるマイホームの処分(競売)を回避することが出来ます。
これに対し、自己破産では、ローンがある場合は住宅ローン債権者に、ローンがない場合でも裁判所に、マイホームを処分されてしまうことが避けられません。
(2) 免責不許可事由が規定されていない
個人再生には、破産手続のような免責不許可事由はありません。
そのため、浪費やギャンブルなどによる借金であっても、それ自体を理由に手続が利用出来ないということはないので、安心して債務整理することが出来ます。
先述の通り、自己破産でも「裁量免責」により殆どの場合は免責されていますが、あくまで裁量なので、免責許可決定を受けられないリスクは常にありますし、破産管財人から様々な調査や手続処理への協力を求められるため、手続面での負担が(本人にとっても)重たくなることは避けられません。
(3) 引っ越しや旅行の制限、郵便物のチェックがない
前述のとおり、自己破産のうち、管財事件では、破産手続中の引っ越しや長期旅行に際して、裁判所の事前の許可が必要です。
また、破産者宛の郵便物は、破産手続が終了するまでの間、破産管財人が内容をチェックするために、全て管財人へ転送されてしまいます。
なお、自己破産のうち、同時廃止の場合は、これらの負担は生じません。
一方、個人再生では、そのような細かい生活上の規制がありません。裁判所への報告は必要ですが、引っ越しや旅行自体は、手続中も自由に出来ます。
(4) 資格や職を失うリスクがない
自己破産では、弁護士、司法書士、宅建主任者などの士業や、生命保険募集人、警備員など、他人の財産を預かる一定の資格・職業について、破産手続中は就けなくなってしまいます。
免責決定を得て復権すれば、これらの制限はなくなります。
これに対して、個人再生をしたことは、上記のような資格・職業制限の理由になりません。
そのため、個人再生手続中であっても、所属部署の変更や休職の必要はなく、従前通りに仕事を続けることが出来ます。会社から借入をしているとか、債権者から既に給与差押を受けている等の事情がない限り、借金の事実や個人再生手続を行なっている事実を勤務先に知られることもほとんどないでしょう。
また、会社役員の人が破産開始決定を受けると、法律上、その時点で、役員を一旦退任しなければなりませんが、個人再生ではそのような制限はありません。
4.個人再生のデメリット(対自己破産)
(1) 借金の返済負担が残ってしまう
自己破産では、最終的に免責が認められれば、原則として、一切の借金を返済する必要が無くなります。
しかし、個人再生では、返済すべき金額が減額されるものの、支払負担はなお残ります。よって、手続開始の段階から、将来的にも収入が継続・反復して得られる見込みが必要です。
また、手続後、再生計画に基づく返済ができなければ、再生計画が取り消され、一旦は減額された借金が再び復活してしまいます。
(2) 借金総額が高額すぎると手続を利用できない
自己破産では、債務がどれだけ高額であったとしても、手続を利用できます。
逆に、負債に関する下限もなく、どれだけ少額の借金であったとしても、支払不能等の基本的な要件を満たしているのであれば、破産することが出来ます。
しかし、個人再生では、住宅ローンなどを除いた債務の総額が5,000万円以下でなければならない、という条件があります。
仮に、負債総額が5,000万円を超える場合には、再生手続としては、通常の民事再生を利用する他なくなりますが、個人再生と比べて、手続面でも費用面でも極めて重い負担となってしまいます。
(3) 債権者に反対されるリスクがある
前述の通り、小規模個人再生では、債権者の頭数の半数以上か、借金総額のうち過半数の債権を有する債権者からの反対があると、再生計画が認可されません。
一方、給与所得者等再生ならば、債権者が反対することは出来ませんが、収入の安定性など、利用のための条件のハードルが高くなりますし、返済額も小規模個人再生に比べて増えてしまいがちです。
これに対し、自己破産の場合は、債権者に反対されるリスクなく、借金を全て免除出来ます。
5.個人再生をお考えなら泉総合法律事務所へ
個人再生は、自己破産に比べると一般には余り知られていない手続かもしれません。
借金の返済負担を減らす、という点だけで見れば、どうしても自己破産に劣ることは事実です。
しかし、自己破産をする上で障害となりやすい財産の処分がなく、住宅ローン特則を利用すればマイホームを維持しながらの債務整理も可能で、また、ギャンブルや浪費による借金であってもリスクなく債務整理が出来ることは、個人再生の大きなメリットです。
再生計画に基づく返済が出来るかどうかの見通しを事前に正確に立てることが出来れば、個人再生と自己破産のどちらを用いるべきかの判断をすることも出来るようになります。
自己破産のリスクやデメリットを避けるため、出来れば個人再生を利用したいと考えてはいるものの、果たして再生計画に基づく返済が出来るかなど、様々な点にお悩みの皆様は、是非、泉総合法律事務所にご相談ください。
泉総合法律事務所では、これまで多数の借金問題を、個人再生や自己破産をはじめとした債務整理で解決してきた豊富な実績があります。皆様のご来訪を心よりお待ちしております。
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