未成年者が自己破産するときの注意点や借金問題
高校を卒業して働き始め、あるいは進学して一人暮らしをし始めてからは、面倒な親から離れて自由に遊びたいものです。
しかし、2019年現在、日本の法律上は、20歳になるまでは「未成年」のままです。
羽目を外して無駄遣いをしてしまい、サラ金に手を出してしまったものの、給料やバイト代で返済できる見込みが無くなってしまった未成年の方が自己破産することは出来るのでしょうか。
また、そもそも、未成年は借金を返済する必要があるのでしょうか。
このコラムでは、未成年者が自己破産をする時の注意点や、未成年者と借金返済に関する問題点を説明しましょう。
1.自己破産とは
自己破産とは、支払いができなくなってしまった借金について、裁判所を通じて、財産のほとんどを債権者に配当する代わりに、借金を原則として全て無くしてもらう債務整理手続です。
自己破産手続により借金が無くなることを免責と言い、それを裁判所が認めることを免責許可決定と言います。
(1) 手続の種類
自己破産の手続には、二つの種類があります。
債務者に債権者に配当できる財産がある、または、免責不許可事由(原則として借金を無くすべきではないとされる事情のことです)がある場合には、管財事件という手続が利用されます。
裁判所により選任された破産管財人が、配当手続や免責不許可事由の調査などを行います。
破産管財人を選任するまでもない場合には、各種手続を省略した同時廃止と呼ばれる種類の手続が利用されています。
(2) 免責不許可事由と裁量免責
免責不許可事由があっても、実務上ほとんどの債務者は免責されています。
裁判所の総合的な判断により免責が認められる、裁量免責という制度があるためです。
ただし、免責不許可事由に対する裁判所や破産管財人の調査に協力せず、嘘をつくなど、反省の態度が見られない悪質な場合には、本当に免責が許可されないこともあります。
(3) 自己破産に年齢制限はない
自己破産をするための条件には、年齢に制限はありませんので、未成年者でも自己破産をすることはできます。
もっとも、それ以前に、そもそも未成年者が借金をすることができるのか、それを返済する必要があるのかを考えなければいけません。
2.未成年者が自己破産するときの注意点
未成年者が自己破産をするには、親に借金を打ち明け、手続に協力してもらうことが不可欠です。
借金をしたときに、未成年者であることだけでなく、お金が無いことなどまで積極的にだました場合には、免責不許可事由が問題となる可能性もあります
(1) 親の同意が必要不可欠
未成年者は、親の同意が無ければ、自己破産をすることが出来ません。
未成年者は、原則として、「法定代理人」の同意が無ければ、契約など法律的な行為をすることが認められていません。
「法定代理人」とは、法律によって、ある人の代理人として契約など法律的な行為をすることが出来る人です。
ほとんどの場合、未成年者の法定代理人は、その親でしょうから、法定代理人という代わりに、親ということにします。
未成年者が、法定代理人の同意なく、契約などをした場合には、未成年者本人単独でも、法定代理人からも、契約を取り消すことができます。
自己破産手続では、弁護士との契約や、裁判所への申立てについて、法定代理人である親の同意が必要になります。
弁護士との契約はもちろん、裁判所への申立ても、法律的な行為ですから、法定代理人の同意が必要とされているのです。
そのため、親に秘密で自己破産をすることは出来ません。
親に事前に打ち明け、よく相談をしてから弁護士に相談しましょう。
(2) 借金をする際の不正行為が免責不許可事由になるおそれ
繰り返しますが、未成年者は、親の同意が無ければ、契約をすることが出来ません。つまり、本来ならば、借金をすることも原則として出来ません。
そのため、未成年者が自己破産するほどの借金を負った場合には、しばしば、年齢を証明する身分証明書や親の同意書を偽造してしまうことがあります。
のちに詳しく説明しますが、このような不正行為をすると、契約を取り消すことが出来なくなります。
もっとも、未成年ではないとだましただけでは、借金の際に不正行為をしたとしても、免責不許可事由にはなりません。
しかし、その偽造の際に、たとえば、他人の身分証明書などを使うなどして、他の貸金業者からの借入状況や収入額を偽って借金をした場合は、免責不可事由に該当する可能性があります
免責不許可事由の一つに「詐術を用いた借入」がありますが、ここでいう「詐術」で相手をだます内容は、年齢ではなく、支払能力だからです。
ですから、年齢をだまして借り入れをしたとしても不許可事由にはなりませんが、借りた時点での借金総額や収入からして、返済不可能な状況である事実を知られないよう、積極的にだました場合は、免責不許可事由となるのです。
3.自己破産の前に契約の取り消しが出来ないか確認
未成年者の場合、自己破産をする前に、そもそも借金を返済する必要があるのかを考えなければいけません。
未成年者が親の同意無く契約をして借金をした場合、借金の契約を取り消すことが出来るからです。
まず、問題となることは、契約を取り消すことができない例外的な場合があることです。
以下、具体的に代表的なケースを説明します。
(1) 親が借金に同意した場合
未成年者がした契約は、親の同意があれば、取り消すことができません。同意のタイミングは、事前はもちろん、事後でも構いません。
なお、契約相手は、親に対して、一定期間内に未成年者が親に無断でした契約について、取り消すか同意するか返答するよう求めることができます。
親が期間内に返答しなかった場合は、同意したと扱われ、契約は有効になってしまいます。
(2) 借金の返済をしてしまうなど、借金を認めることをしてしまった場合
親が、契約通りに、返済をし、または、貸付けしろと請求してしまった場合には、同意があったとみなされます。
なお、事後の同意も、また、同意したとみなされる行為も、未成年者がしても意味がありません。
ただし、未成年者が成人後に上記のような行為をすると、取り消すことはできなくなります。
(3) 未成年者が借入先をだまして借金をした場合
法律上は「詐術」を使った場合と言われています。
何について相手をだましたのかが問題になりますが、以下のことが考えられるでしょう。
成人済みであると、年齢についてだました場合
身分証明書の生年月日に小細工をしたうえで、相手に見せたケースなどです。
積極的行動が必要で、単に未成年であることを黙っていただけでは、該当しません。
親が同意したと、親の同意についてだました場合
親の同意書などを偽造したケースなどです。
上記の場合には、未成年者が親に無断でした契約を取り消すことはできません。
(4) 未成年者が結婚したことがある場合
結婚をすると、未成年者でも法律上は成人と扱われるようになります。また、未成年のうちに離婚してしまっても、その扱いは変わりません。
ですので、結婚をしたことがある未成年者が借金をした場合、親の同意がないことを理由に取り消すことはそもそもできません。
結婚をして夫婦共同生活をし始めたにもかかわらず、生活に必要な衣食住など重要な契約について親の同意が必要とするわけにはいきません。
また、離婚をしても一度成人扱いされた権利を大きく制約すると、不利益や不都合が大きすぎます。
そのため、結婚したことがある未成年者は、親の同意がなくても、完全に有効に契約をすることができ、同意がないことを理由に取り消すことはできないとされています。
(5) 未成年者が自営業を営んでいる場合
未成年でも自営業をしていると、成人と扱われますので、単独で契約できますし、親の同意がないことを理由に契約を取り消すことはできません。
事業に関する融資などについて、事業者本人と取引先以外の人間が口を出すべきではないからです。
また、事業を行っていれば、未成年でもそれなりの法律判断能力を持っているとみなすべきでしょう。
4.契約取消後に返済が必要な金額
契約を取り消したあとは、手元に残っているお金など、未成年者のもとに残っている利益の限度でのみ返済することになります。
この利益を「現存利益」と呼んでいます。
なぜこのような難しい言い回しをするかというと、単に、手元に現実にある金銭を返せばいいというだけの話ではないからです。
(1) 現存利益として返還が必要な場合
①借りた金銭
②借りた金銭で買った物
現存利益が意味するものは、借金そのものである金銭はもちろん、「形を変えて」借りた借金の価値が残っているものも含みます。
ですから、借金で買ったものは、借金が形を変えて残っているものとして、現存利益となるのです。
③生活費
生活費は、社会生活のために不可欠な出費です。もし、生活費をまかなうために借金を当てた場合は、生活していたことそれ自体が現存利益です。
よって、借金を生活費に充てたために出来た家計の余裕については現存利益とみなされます。
(2) 現存利益とならず返還が不要な場合
①浪費
②ギャンブル
飲食などの遊興費やギャンブルなど浪費で使った分については、現存利益とはみなされません。
借金が形を変えて残っているものはありませんし、家計に余裕を生み出したわけでもないからです。
真面目に使ったお金は返さなければならず、遊びに使ったお金は返さないでよいというのは、貸した側としても借りた側としても納得できないかもしれませんが、そのようになっています。
なお、借金をした際に、相手をだましていた場合には、そもそも契約を取り消すことが出来ません。
浪費やギャンブルによる借金でも、全額を、契約で約束したとおりに返済しなければならないことは、肝に銘じてください。
5.未成年者の借金問題は泉総合法律事務所へ
未成年者が借金をしても、取消したうえで現存利益の返還をすることで、自己破産するほどの支払負担を負うことは避けられます。
しかし、場合によっては自己破産をせざるを得ない状況になる可能性もあります。そうなってしまったら、一刻も早く、勇気を出して親に相談したうえで、弁護士に相談しましょう。
自己破産に伴うデメリットは、早くに手続をした方が一般的に小さくなります。
まだ社会に出たばかりの未成年であればなおさらです。
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