債務整理

不動産投資の失敗による借金を個人再生で債務整理するには

不動産投資の失敗による借金を個人再生で債務整理するには

昨今、スルガ銀行とかぼちゃの馬車問題のように、不動産投資に関する社会的不祥事が相次ぎ、それに伴い、不適切な不動産投資により債務整理をせざる得なくなっている方が増えています。
投資用不動産のために作った借金を、その不動産の売却で帳消しに出来ればよいのですが、しばしば、支払いきれない借金が残ってしまいます。

自己破産手続で借金全額を無くそうにも、そのデメリットやリスクから、二の足を踏んでしまう方もいるでしょう。

そこで代わりに選択肢となる債務整理手続が個人再生手続です。

このコラムでは、不動産投資による借金を個人再生手続で債務整理する場合について説明します。

1.不動産投資のリスク

不動産投資には転売による差額を狙うものもありますが、ここでは、賃料収入を目的とした不動産投資に絞って説明します。

賃料収入を目的とした不動産投資は、基本的に非常に長期間にわたる運用で利益を出すものです。

金融機関から資金を調達して賃貸用不動産を建築もしくは購入し、入居者から受け取る賃料でローンを返済します。家計を圧迫されずにローンを完済した後は、賃料が不労所得として家計を助けてくれる…という目算です。

かつては、高収入の年配の方が老後の資産運用目的で行うことが多かった不動産投資ですが、最近では、リスクが少なく将来に備えられるとして、若い方に対しても金融機関が積極的な営業活動を行っていました。

しかし、現実には、不動産投資には様々なリスクがあるのです。

(1) 収入に関するリスク

そもそも、入居者が集まらず、空室だらけとなってしまえば、不動産投資による収入自体が絵に描いた餅になってしまいます。

金融機関の安易な営業により、十分な知識を持たない方が、物件の現地確認も行わずに不動産を購入してしまうことで、この問題は非常に生じやすくなりました。

また、入居者がいても家賃滞納リスクがあります。管理会社がずさんであれば、そのリスクに拍車をかけます。家賃自体も、不動産が古くなれば相場は下落します。

もうそろそろ返済が終わるという頃に家賃の下落で返済期に行き詰まるリスクは、年配の方は特に無視できません。

(2) 支出に関するリスク

投資用不動産の建築または購入費用以外にも、不動産投資では様々な支出が必要です。毎年かかる固定資産税は特に大きな負担となります。

また、天災や経年劣化に伴う修繕費用により、見通しが狂うこともあります。

さらに、不動産投資ローンの利息は、その時々の経済状況で意外と大きく変わってしまうものです。

(3) 金融機関や建築業者などの不正

冒頭で述べたスルガ銀行とかぼちゃの馬車問題を代表とする、様々な不正問題も、不動産投資による借金問題に大きな影を落としています。

金融機関と関係業者がつるみ、営業実績を作り上げるために、各種の書類偽造などの不正を使って、投資用不動産の価格や投資者の財産状況や収入をごまかし、本来ならば投資に向かない賃貸不動産を、経済的余裕のない方に対して売りつけたのです。

その結果、不動産投資後、すぐに返済に行き詰る方が多数に上っています。

このようなリスクのある不動産投資により債務整理が必要となった方には、どのような方法が向いているのでしょうか。

自己破産手続は、原則として借金全額を帳消しにしてもらえる最も強力な債務整理手続ですが、ほとんどの財産を失うことになるなどデメリットも多くあります。そこで自己破産手続のデメリットを回避しやすい、個人再生手続が重要となるのです。

とはいえ、個人再生手続では、減額されるとはいえ借金の返済負担が残ってしまいます。

次の項目で、個人再生手続を選択すべきポイントを説明します。

2.個人再生手続を選ぶべきポイント

(1) 財産を維持できる

詳しくは後述しますが、個人再生手続では、自己破産の配当見込額である「清算価値」以上の金額を返済しなければならないため、債権者は、自己破産の配当以上の返済を受け取れることが保障されています。これは清算価値保障の原則と呼ばれています。

清算価値保障の原則があるために、個人再生手続では、配当手続が無く、裁判所により財産が処分されることがありません

ですから、自己破産すると処分されてしまう高額な財産のなかに処分されたくないもの、たとえば、ローンを支払い終わった持ち家などがある場合には、個人再生手続を選択すべきでしょう。

ただし、清算価値保障の原則は、個人再生手続そのものに対する障害にもなります。この点も後述しましょう。

(2) ローンのある持ち家を維持できる

担保となっている財産は、個人再生手続でも債権者により処分されてしまいますが、債務者が住む持ち家に関しては、住宅資金特別条項という個人再生手続特有の制度により、債権者の処分を免れることが出来ます。

ですから、住宅ローンの返済が終わっていない方は個人再生手続を選ぶべきです。この点は、個人再生手続のメリットの中でも特に重要です。

なお、投資用不動産には住宅資金特別条項を用いることは出来ません。また、持ち家であっても、他の借金の抵当権がある場合などには用いることが出来ないといった利用条件があります。

さすがに投資用不動産のための融資の担保として、住宅ローンの残っている持ち家を抵当に入れることは、不祥事を起こすような銀行でもしないでしょうが、念のためご注意ください。

(3) 免責不許可事由がない

免責不許可事由とは、自己破産手続で、原則として借金が免除されなくなる事情の事です。浪費やギャンブルが典型とされます。

不動産投資であっても、収入などに不釣り合いな融資を受けたことが、浪費扱いされる可能性が無いわけではありません。

ほとんどの場合は裁判所の判断で救済されますが、金融機関の不正に気付きながら見逃したなど、他にもよくない事情があると、免除されないリスクは無視できないでしょう。

個人再生手続には、免責不許可事由のような規定はありませんので、上記のような心配はご無用です。

(4) 資格制限がない

自己破産手続中は、警備員や保険外交員、金融業界関連の資格その他、他人の財産を取り扱う職業や資格が制限されます。

もとより、不動産投資は家計に余裕がある方が行う傾向の強い投資です。

金融業界などにお勤めの方にとっては、大きな問題となりやすいでしょう。

手続前に勤務先に相談し、休職や転属をするといった回避策もありますが、不便ですし、何より、勤務先に借金がばれてしまいます。

個人再生手続では、資格制限がされることは一切ないため、警備員や保険業界、金融業界でお勤めの方でも、安心して手続を利用できます。

3.不動産投資の借金を個人再生手続で債務整理するときの注意点

自己破産手続のデメリットを回避しやすい個人再生手続にも、リスクやデメリット、利用条件などの注意点があります。

たとえば、借金総額が5000万円を超える場合には、手続を利用できません。

しかし、持ち家の住宅ローンは除かれ、また、投資用不動産の価値も差し引かれて考慮されますから、さほど問題にはならないでしょう。

問題になりやすいものは①清算価値と再生計画の履行可能性、そして、②投資用不動産融資の債権者による反対です。

以下それぞれ説明しましょう。

4.清算価値と再生計画の履行可能性

個人再生による債務整理を成功させるには、再生計画を裁判所に認可してもらわなければなりません。

再生計画の認可条件の中でも最も重要なものが、再生計画に基づく返済が可能であるという、再生計画の履行可能性です。

収入が十分あることはもちろんですが、返済額も当然問題になります。

一般的に用いられる個人再生手続の種類である、「小規模個人再生」では、返済額は以下の、いずれか、より高額の金額が返済額となります。

  • 最低弁済額:借金総額に応じ法律が定める金額で、目安としては借金総額の5分の1か
  • 清算価値:前述のとおり、自己破産した場合に配当されると見込まれる債務者の財産相当額

このうち、清算価値は、個人再生手続一般で問題になりやすいものなのですが、不動産投資をされた方、特に財産や持ち家を維持したいために個人再生手続を選択した方にとっては、大きな問題になりえます。

以下では、まず、不動産の清算価値について説明し、その後、読者の皆さんの状況に応じた清算価値と再生計画の履行可能性における注意点を説明します。

(1)不動産の清算価値について

不動産については、持ち家にせよ、投資用不動産にせよ、不動産の査定額とローン残高の大小が問題になります。

①持ち家

住宅資金特別条項により維持が可能な持ち家については、アンダーローン、すなわち「不動産査定額>ローン残高」の場合には、その差額が清算価値となります。

逆に、「不動産査定額<ローン残高」となっているオーバーローンの状態ならば、持ち家の査定額がどれだけ高額でも、その清算価値はゼロです。

②投資用不動産

投資用不動産は住宅資金特別条項が利用できませんから、債権者による競売、もしくは債務者自身の手による売却(「任意売却」といいます)がされることになります。

出来る限り、早くに債務者自身で任意売却をしたほうが良いでしょう。借金総額が確定し、手続がスムーズに進むようになります。

投資用不動産については、アンダーローンの場合は、売却代金でローンを返済したうえで残った現金が、清算価値になります。

アンダーローンとなる方は、ローンを長年返済し続けてきた方や、退職金を使って多めの頭金を入れたような年配の方に多いことでしょう。

オーバーローンの場合は、ローンが残ることになります。このローンは、一般の借金と同様に扱われ、その一部のみを返済すれば残額が免除されます。

ただし、借金総額が増加するために、最低弁済額基準に基づいて、返済額が増加する恐れがあることには注意してください。

最近問題となっている不適切な不動産投資問題では、オーバーローンとなっている方が多くなっています。

安い不良物件を不当に高く査定し、あげくその査定額よりも多い融資を、財産も収入も十分ではない方に貸し付けることが行われてしまったためです。

(2) 清算価値全般と再生計画の履行可能性について

現金や預貯金はもちろん、たとえば、投資用不動産の火災保険などの解約返戻金も、清算価値に計上される可能性があります。

現金99万円は差し引かれるなど、細かな運用がありますが、裁判所により異なりますので、弁護士に詳細はしっかりと確認してください。

清算価値全般につき、皆さんの状況ごとの注意点は、下記のとおりとなるでしょう。

①若い独身の方

若い独身の方は、各種の貯蓄がさほどないでしょうから、清算価値が大きな問題になることは少ないでしょう。

もっとも、非正規社員の問題に代表されるように、近年の若年層の方は、給与が少なく、返済額が多くなくとも、履行可能性が認められにくい恐れがあります。

②持ち家・家庭のある働き盛りの方

持ち家があっても、まだ若い方ならば、オーバーローンのことが多く、その清算価値はさほど問題になりません。

むしろ、住宅ローンは住宅資金特別条項を利用すると減額されないため、再生計画上の返済との二重払いの負担となることのほうが大きな問題となりがちです。

他の財産としては、退職金の8分の1が清算価値となることや、高額となりやすい学資保険の解約返戻金に注意しましょう。

③定年直前の方

定年直前の方は、清算価値が高額化しやすくなります。不動産がアンダーローンとなりやすく、また、生命保険の解約返戻金も高額になります。

退職金の金額も高額となるため、8分の1でも無視できなくなり、しかも、場合によっては計上される割合が4分の1へと倍増します。

早期退職により退職金全額を手に入れて繰り上げ返済をすることで負担を減らすことなども視野に入れましょう。

④定年後の年金暮らしの方

退職金が支給されると全額が清算価値になってしまいますが、このコラムをお読みになっている方ですと、退職前からの不動産投資のやりくりや、もしくは、退職後に購入した投資用不動産の頭金などでほとんど霧散しているでしょうから、問題とはならないでしょう。

しかし、保険の解約返戻金は定年前同様問題です。

なにより、年金が少ないため、履行可能性の判断に関しては、収入不足が大きな問題となるでしょう。

5.投資用不動産融資の債権者による反対

一般的に用いられる小規模個人再生では、債権者の半分以上、または、借金総額の半分を超える債権者の反対があると、手続打ち切りとなってしまいます。

巨額の不動産投資の資金を、特定の銀行から借りていると、債権者が少数でかつ借金の金額が偏在していることとなり、手続が打ち切られるリスクを無視できない場合があります。

そのような場合、もう一つの手続の種類である給与所得者再生の利用を検討します。債権者の反対制度がないためです。

しかし、収入が安定していなければ利用できないため、自営業や歩合給の方は利用できない恐れがあります。また、給与所得者等再生では、収入から税金や政令で定めた生活費などを差し引いた、「可処分所得」の2年分が、上記2つに追加されます。

可処分所得は、扶養家族がいない若くて独身の方は高額になりがちです。

特に、収入があればあるほど可処分所得は増加しますから、高収入で履行可能性が認められると油断していると、可処分所得基準に足元をすくわれかねないことは、頭の片隅においてください。

6.不動産投資による借金を個人再生で整理するには弁護士に相談を

将来に備えた安定した投資として、不動産投資は根強い人気があります。

しかし、もとより、長期的スパンの投資である不動産投資には、思いもかけないリスクが顕在化することがあるうえ、最近では、金融機関などの不適切な営業により、無理な投資をしてしまう方が多くなっています。

個人再生手続は、比較的デメリットが少なく、安心して大幅に借金を減額できる可能性のある便利な債務整理手続です。

もっとも、清算価値保障の原則をはじめとした各種の規制がある複雑な手続ですので、弁護士の助言のもと、自己破産手続と慎重に比較し、手続を進めるうえでも、弁護士の手助けが必須です。

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