年金で暮らす高齢者の方が自己破産する際の注意点
最近では、年金で生活している高齢者の方の自己破産も増加傾向にあります。
- 年金給付額の低さ
- 子供世代の貧困化による仕送り不足
- 医療費の増大
- パートやアルバイトも困難
といった、収入支出の問題が大きくなっているためです。
社会からの孤立による、ギャンブル依存なども借金の原因になります。
このコラムでは、上記のような事情がある高齢者の方が自己破産する場合には、どのような点に気を付けなければならないのか、わかりやすく説明します。
このコラムの目次
1.高齢者は自己破産が認められやすい
まず、高齢者の方は自己破産ができるのでしょうか。
不安に思っている方もいらっしゃることでしょうが、実際のところ、高齢者の方は自己破産が認められやすい傾向にあります。
(1) 自己破産に年齢制限はない
最初に、自己破産には年齢制限がありません。
ですから、高齢だからということを理由に自己破産手続が認められないことはありません。
とはいえ、高齢者の方には、働かなくとも年金収入があります。
少ないとはいえ、安定した収入がある高齢者の方が、自己破産を認めてもらえるのでしょうか。
(2) 高齢者の方は自己破産の条件が認められやすい
高齢者の方の場合、働き盛りの人ならば返済が不可能ではない金額の借金、たとえば、100万円にも届かない借金でも、自己破産が認められることがほとんどです。
ア 自己破産をするための条件
そもそも、自己破産は、「借金全額を支払えなくなってしまった」と認められることが、大前提の条件になります。
貸金業者や銀行などの「債権者」(お金を貸している人など、お金の支払いを法律上要求できる人)と交渉をしても、借金などを支払いきれない「支払不能」という状態になっている人が、自己破産を裁判所にお願いすることが出来ます。
つまり、借金の金額が多いか少ないか自体は問題にならないのです。
借金が少なくても、収入がとても少ない、または全くない・財産もほとんどない、と言った事情があり、借金を返しきれないのであれば、「支払不能」と言え、自己破産が認められます。
イ 高齢者の方は支払不能と認められやすい
冒頭で説明した通り、一般的に高齢者の方は、収入源が限られています。
年金の金額は国により決められ、しかも、十分な金額とは言えません。子どもたちからの仕送りも、長引く不況のために期待ができないことが多いでしょう。
パートやアルバイトでも、十分な収入を手に入れられるとは限りません。
一方で、医療費は多くかかるようになってしまいますから、家計から借金返済に充てるためのお金を絞り出すことも難しくなります。
そのため、高齢者の方は、支払不能と認められやすく、借金の金額が少なくとも、自己破産が認められやすいのです。
自己破産がしやすいと言っても、自己破産には様々な不利益や問題がないわけではありません。特に年金などがどうなるのか不安でたまらない方もいらっしゃるでしょう。
項目を改めて、高齢者の方の自己破産の注意点について説明しましょう。
2.高齢者の方の自己破産の注意点
自己破産をすれば、「免責」と言って、原則として借金を返済する必要が無くなります。
裁判所が免責を認める「免責許可決定」をするまでの手続が、自己破産手続です。
借金を帳消しにする自己破産には、どうしても様々なデメリットが付きまといます。
その中でも、大きな問題となるものが財産の処分です。一定以上の財産は、債権者に配当するために処分されてしまいます。
では、年金は、処分の対象になってしまうのでしょうか。
また、実は自己破産をしても、全ての借金に関する負担が必ずなくなるわけではありません。
年金を担保にして借金をしている場合、この例外が問題になります。
(1) 自己破産手続と年金
自己破産をしても、将来年金を受け取ることが出来ます。年金を国に請求する権利は裁判所の処分対象とはなりません。
ですから、自己破産をしたことで、将来の年金が全て裁判所を通じて債権者の手にわたってしまうということはないのです。
ただし、以下の点に注意しなければいけません。
現金や預貯金となっている年金は処分の対象となる
手続開始前に受け取った年金は、現金や預貯金として扱われます。
金額などの基準は裁判所により異なりますが、たとえば99万円を超えた部分の現金や、残高が20万円を超える預貯金は、財産の処分対象となっています。
そのため、原資は年金だとしても、受け取って現金や預貯金となっていれば、処分されてしまう可能性があります。
なお、手続開始後の収入は、新得財産と呼ばれ、処分の対象外となります。ですから、手続開始後に受け取った年金は、裁判所により処分される心配はありません。
年金振込口座からの引き出しには要注意!
年金振込口座に振り込まれた年金が基準額を超えている場合、引き出して現金にすることで残高を基準額未満にし、預貯金の処分を回避することも考えられます。
しかし、自己破産直前に預貯金を引き出すと、自己破産できなくなるおそれが生じるのです。
自己破産手続では、債務者に問題行動がある場合、手続負担が重くなり、免責が許されなくなる可能性があります。この問題行動を「免責不許可事由」と言います。
自己破産直前に預貯金を引き出すと、裁判所は、債務者が「偏頗弁済」や「詐害行為」と言った免責不許可事由をしたのではないかと疑います。
実務上は、よほど悪質な免責不許可事由がない限り、裁量免責制度により免責がされています。
しかし、破産管財人の報酬を20万ほど(最大50万円)支払わなければ自己破産できなくなるなど、負担が大きくなってしまいます。
預貯金を引き出したとしても、弁護士の指示に従い、自己破産に伴い必要とされる出費に充てれば問題はないこともあります。
独断で引き出しをしないで、弁護士と相談してからにしてください。
口座の凍結について
借金をしている相手方銀行の口座を年金振込口座にしている場合、銀行が受任通知を受け取った段階で口座を凍結してしまいます。すると、国から給付された年金を、銀行が凍結を解除するまで、現金として引き出せなくなってしまいます。
他の銀行に口座を新しく作り、そちらに振込先の変更をしましょう。
年金担保貸付の負担は事実上残ってしまう
年金担保貸付とは、年金を担保にお金を貸し付けることです。
高齢者の方の生活保障のための収入を借金のかたに取るものですから、原則として禁じられていますが、「福祉医療機構」によるものだけは認められています。
福祉医療機構から年金担保貸付を受けている場合、その返済負担は、自己破産しても、事実上残ってしまいます。
どういうことかというと、年金担保貸付による借金は免責されても、「借金のかた」つまり担保となってしまっている年金からの天引きは、自己破産後も借金残高全額が回収されるまでは止まることがありません。
担保の付いている借金は、債権者平等の原則の例外となっています。
自己破産により借金自体は無くなるのですが、債権者が担保から借金の回収をすることは自己破産に関わらずできるままなのです。
そのため、事実上、年金担保貸付は、自己破産をしてもなくならないも同然となります。
他の借金は無くなりますので、自己破産の意味がないわけではありませんが、くれぐれも、年金担保貸付にはご注意ください。
なお、それ以外からの年金担保貸付は、違法な闇金や詐欺行為です。返済義務はありません。すぐに弁護士に詳細な事実を説明してください。
(2) 個人年金や生命保険の解約返戻金は処分される
自己破産による処分の対象とならないのは、あくまで公的年金制度に基づく年金受給権です。
保険会社などが販売している、個人年金などの商品、また、年金と同じような役割を持っている積立型の生命保険解約返戻金は、基準額以上であれば、処分の対象となってしまいます。
自己破産前に名義を家族に変更することは絶対にやめてください。
財産を裁判所や破産管財人の目から隠そうとすることは、非常に悪質な免責不許可事由です。
財産隠しをすると、それだけで裁量免責をしてもらえず、財産を処分されたのに借金が残ってしまうことになるおそれが非常に高くなります最悪、犯罪にもなりかねません。
もし、すでに名義を家族に変えてしまっている場合には、すぐに弁護士に伝えて対処方法を教えてもらってください。
裁判官や破産管財人から激しく問い詰められたら、正直に、誠実に、事実を説明して、反省していることを態度であらわしてください。そうすれば、裁量免責の可能性は十分あります。
3.借金のある方が認知症となってしまっている場合
認知症の高齢者の方が、借金の支払いができなくなった場合は、家庭裁判所で成年後見人を選任し、成年後見人が自己破産申立をすることになります。
成年後見は弁護士に依頼することが可能なので、自己破産の手続と一緒に依頼すると簡単です。
認知症の高齢者が借金を抱えている場合、ご本人の財産が少なく、連帯保証人もいなければ自己破産をして借金をゼロにするのは合理的な選択です。
自己破産すると以後5~7年は新たな借入ができませんが、債務整理の有無に関わらず、今後はご本人が借金をするのは病状からして現実的ではありません。
基本的に、公的年金が処分されてしまうことはないことは、すでに説明した通りです。
こうしたケースでは特に失うものもないので、自己破産のメリットの方が大きいでしょう。
特に自分の親の場合は、この先の介護費用も心配です。その上借金の肩代わりまですると親子共倒れの可能性もあります。
最悪の事態になる前に、弁護士に相談をして借金をクリアにすることをおすすめします。
4.年金生活者の方の自己破産は泉総合法律事務所へ
借金にお困りの高齢者の方々の中には、長年生きてきたのに自己破産をすることになるなんて、というような不安を抱き、躊躇してしまう方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、残る余生を安心して過ごすためにも、借金の返済が苦しくなってきたときは、できるだけ早い段階で弁護士に相談することが重要です。
泉総合法律事務所には、自己破産手続を含む債務整理手続に関する豊富な経験と実績のある弁護士が多数在籍しております。
自己破産手続の利用を検討している皆様のご相談を、お待ちしております。
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