バイナリーオプションで借金!個人再生で持ち家と家族を守る方法
最近、FX取引などに代わり、インターネットを通じて流行している取引の一つが、バイナリーオプションです。
バイナリーオプションは、特定の種類の資産、特に為替などの値動きについて、一定時間後の変動を予測するだけという、非常に簡単な取引です。
また、FXなどと異なり、レバレッジをかけて手持ちの資金以上の取引をすることもありませんから、市場の乱高下があっても、高額の追証金を要求されるといった事態は生じません。
しかし、数万円程度のわずかな資金を分単位で「かける」ことも可能なために、パチンコやスロットのようにのめりこみ、気づけばサラ金から借金を繰り返して多重債務を負ってしまう方が後を絶たないのです。
家庭を支える働き盛りの方でも、仕事や家庭のストレスのあまり、その手軽さからバイナリーオプションにハマってしまうことがあります。
そのような方にとっては、自己破産はリスクやデメリットが大きくなりがちです。
ここではバイナリーオプションが原因で生じた多重債務を、自己破産手続のデメリットを回避して借金の返済負担を減らせる債務整理手続である、個人再生手続について説明します。
1.個人再生手続の特徴
個人再生手続は、支払不能の恐れのある債務者が、裁判所に申し立てをして、借金の返済義務などの全ての金銭支払義務、つまり「債務」(債権者から見れば「債権」)の返済負担を大きく減額してもらえる債務整理手続です。
借金のうち、最低限支払わなければならないと定められている一部についてのみ、原則3年(最長5年)で返済する「再生計画」を裁判所に履行可能であると認可してもらい、その計画に従った返済を終えれば、残る借金が免除される仕組みになっています。
個人再生手続では、原則として借金全額が免除される自己破産手続と異なり、返済負担が残ります。
しかし、個人再生手続は、このコラムに興味を持つ方にはとくに問題になりがちな、自己破産手続のリスクやデメリットを回避できる点にあります。
(1) 借金の原因を問題視されない
自己破産手続では、バイナリーオプションによる借金があると、借金が免除されないリスクが生じます。
免責不許可事由といって、自己破産手続では、免責(借金を免除すること)するには不適切な事情がある場合には、原則として免責してはならないとの規定があり、バイナリーオプションは、免責不許可事由の代表例であるギャンブルに該当するからです。
実際には、裁判所の判断で免責してもらえることが多いのですが、あまりに金額が高額なときや、他にも不適切な事情があるときなどには、本当に免責されないこともあります。
個人再生手続では、免責不許可事由のような規定はありません。
ギャンブル同然のバイナリーオプションにより借金をしたからといって、手続が利用できなくなるリスクは生じないのです。
(2) 裁判所による財産処分がない
自己破産手続では、目安として20万円以上の価値を持つ財産は、裁判所により処分され債権者に配当されます。
個人再生手続では、債権者に一部とはいえ借金を支払いますので、配当手続がありません。
そのため、少なくとも裁判所により財産を処分されることは一切ありません。
(3) 住宅ローンの残る持ち家を維持可能
自己破産手続でも個人再生手続でも、ローンの残る自動車や持ち家などは、担保権を持っている債権者により処分されてしまうことが原則です。
しかし、個人再生手続では、住宅資金特別条項という制度が利用できれば、持ち家を債権者に処分されないようにすることができます。
(4) 仕事に影響が生じない
自己破産手続中は、他人の財産を取り扱うような資格や職業、例えば、警備員や保険・金融関連の資格を用いて働くことができなくなります。
個人再生手続には、上記のような制限は一切ありません。
2.住宅資金特別条項の要件論と具体例
個人再生手続最大のメリットである住宅資金特別条項ですが、どのような場合でも利用できるわけではありません。
以下の利用条件をすべて満たす必要があります。
(1) 住宅ローンを持ち家と関係のない出費に充てていない
住宅ローンは、純粋に持ち家の購入・建築などの代金だけでなく、他の諸費用についても利用できることがほとんどです。
税金や登記費用などならば、持ち家に関係がありますから、問題ありません。
一方、教育費や生活費などにも充ててしまっていた場合には、住宅資金特別条項は利用できません。
(2) 持ち家を自分の生活のために使っているといえる
単身赴任で一時的に利用していないというだけならよいのですが、別荘には適用できません。
二つの家を交互に使っている場合でも、残せるものは一つだけです。
また、個人事業の店舗など、生活以外の目的にも用いている場合には、床面積の半分以上が生活目的で利用されている必要があります。
(3) ほかの借金の担保権がついていない
持ち家に、個人事業資金のための第二抵当権や、バイナリーオプションの資金捻出のため不動産担保ローンの抵当権が、住宅ローンの抵当権とは別にある場合、住宅資金特別条項は利用できません。
(4) 保証会社の代位弁済から6か月以内に申立てをした
住宅ローンの支払遅滞により、保証会社が代位弁済をして持ち家を差し押さえていても、6か月以内に申立てをすれば、代位弁済をなかったことにできます。
逆に言えば、6か月を過ぎてしまった場合には、どうしようもありません。
3.再生計画の履行可能性と清算価値
住宅資金特別条項の利用条件を満たしても、手続自体が成功しなければ、返済負担が減らないことはもちろん、持ち家も守れません。
個人再生手続を成功させるための条件は様々なものがありますが、何より重要なものが「再生計画の履行可能性があること」です。
そして、再生計画の履行可能性を考える上では、持ち家をはじめ財産を持っている方にとっては、再生計画での返済額の基準の一つ、「清算価値」が大きなポイントとなります。
(1) 再生計画の履行可能性とは
再生計画に基づく返済を可能とするには、裁判所に再生計画を認可してもらう必要があります。そして、認可条件の中でも、特に再生計画を滞ることなく完遂できるという「再生計画の履行可能性」の有無が最大の焦点となるのです。
再生計画に基づく返済に行き詰まってしまったら、残る借金全額が元通りに復活し、手続をした意味がなくなってしまうからです。
履行可能性が認められるには、もちろん、十分な収入が不可欠です。
一方、返済額がどれだけ減るかもまた、大きな課題となります。そこで問題となるのが、清算価値です。
(2) 清算価値について
清算価値とは、仮に自己破産したとしたら債権者に配当されたであろう、債務者の財産見込額です。
個人再生手続では、配当がない代わりに、清算価値以上の金額を再生計画上返済しなければなりません。これを「清算価値保障の原則」といいます。
一般的な手続では、法律が借金総額に応じて定めている「最低弁済額」と、清算価値、いずれかより大きい金額を再生計画で返済することになります。
最低弁済額は法律の規定に借金総額を当てはめれば簡単に見通しが立ちますが、債務者の財産次第である清算価値はそうはいきません。
清算価値を考えるうえで、特に重要な財産は以下のとおりです。
①持ち家
圧倒的に価値が大きいため、清算価値を押し上げるリスクがあります。
もっとも、住宅ローンの分だけ差し引かれるため、たとえば、「住宅ローン残額>持ち家評価額」の状態、いわゆるオーバーローンの場合、持ち家の清算価値はゼロになります。
逆に、持ち家の評価額のほうが大きいアンダーローンの場合には、差額が清算価値になります。
よって、持ち家については、その評価金額をいかに低額にするかが重要です。
もちろん不正は許されませんが、裁判所の運用や各種査定方法の範囲内でできることを弁護士に助言してもらいましょう。
②保険の解約返戻金
生命保険や学資保険の解約返戻金も、清算価値に含まれます。特に学資保険は返戻金が高額になりやすいでしょう。
また、保険に関しては名義や保険料の負担、契約者貸付制度に関して問題が生じがちです。
下手にいじらずに、弁護士に保険の扱い方を確認してください。
③退職金
退職金も将来お金をもらえる権利、つまり財産ですから、清算価値に含まれます。
もっとも、確実にもらえるとは限らないので、一般的には、現時点での退職金見込額の8分の1が清算価値となります。
裁判所により、勤続年数や退職までの期間などで、大きく割合が変動しますので、ちゃんとした見通しは相談した弁護士に尋ねてください。
4.個人再生手続をする上での注意点
個人再生手続にも、リスクやデメリットがないわけではありません。重要なものを上げたうえで、出来る限りの対策を簡単に述べます。
(1) またバイナリーオプションなどに手を出してはいけない
弁護士との相談以降もバイナリーオプションをし続けていれば、そもそも手続を申立てても、裁判所に手続を始めてもらえない可能性があります。
特に、さらに新しく借金をしてつぎ込んでいればそのリスクは非常に高いでしょう。手続中も我慢しましょう。
反省していないため、再生計画の履行可能性がないとされかねません。
裁判所によっては、手続中予定返済額を支払う履行テストを行うところもあります。
また、バイナリーオプションに無駄遣いをしたことで履行テストに失敗すれば、再生計画が認可される可能性はほとんどないでしょう。
(2) 「債権者平等の原則」による影響
「債権者平等の原則」とは、裁判所を用いる個人再生手続では、債権者を不公平に取り扱ってはいけないという原則です。親族や友人、勤務先であろうが、債権者は全員手続の対象となります。
また、特定の債権者にだけ優先的に返済をすると、「偏頗弁済」という不正行為に該当します。偏波弁済をすると、その金額が清算価値に上乗せされ、再生計画上の返済額が増加する恐れがあります。
スマートフォンの通信料を滞納しているとき、または、本体代金の割賦払いがまだ残っているときは、通信会社も手続に巻き込まれてしまうため、通信契約が解約されます。
手続開始後は、プリペイド携帯を活用しましょう。
特に注意すべきは保証人がいる借金です。保証人に借金残高が請求されてしまいますから、事前の連絡を忘れないでください。
(3) ブラックリスト
個人再生手続を含む債務整理をすると、信用情報機関の名簿、いわゆるブラックリストに登録されます。新規クレジットカードの作成やローン契約、他人の借金の保証が長くて10年間ほどできなくなります。
逆に言えば、遅くとも10年後には、元通りになります。
(4) 口座凍結
手続対象の銀行に預貯金口座があると、銀行により口座が凍結され、入出金ができなくなります。
給料振込先口座が該当する場合には、事前に変更しましょう。
(5) 負担が減らない支払いについて
個人再生手続でも負担が減らない支払いがあります。
代表例は税金です。手続中でも滞納処分をされかねず、裁判所の履行可能性の判断に影響を与えます。事前に役所で分納手続を済ませ、それを踏まえた再生計画を立てましょう。
また、離婚した場合、養育費は、再生計画期間中の返済額は減るものの、計画期間終了と同時に残額が一括請求されます。DVが原因となっている慰謝料も同様です。
再生計画上の返済とは別口で積み立てをしておきましょう。
5.バイナリーオプションによる借金の個人再生は弁護士へ
リスクも(一見)少ないし、金額もお小遣いの範囲内でできるとあって、家庭のある方でものめりこんでしまいがちなバイナリーオプションは、ギャンブル同然のものとして、自己破産手続では免責されないリスクがあります。
働き盛りで家庭のある方にとっては、持ち家の処分、学資保険の解約や資格制限などのデメリットも無視できないでしょう。
個人再生手続であれば、自己破産手続の様々なデメリットやリスクを回避して、バイナリーオプションによる多重債務を大きく減額できる可能性があります。
とはいえ、個人再生手続は複雑な債務整理手続です。裁判所を利用することに伴う債権者平等の原則などの規制はもちろん、清算価値保障の原則により、返済額がさほど減らないリスクもあります。
弁護士に実際に相談し、あなたを取り巻く具体的な事情のもとではどのように個人再生手続を進めればよいのか、しっかりと検討しましょう。
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