医師の診察は絶対必要!交通事故直後には痛みがなくても病院へ
交通事故は、「先を急ぐ用事のあるとき」に起きてしまうこともあります。
たとえば、後方から追突された事故の場合などでは、「衝撃は受けたが外傷も痛みもないから問題ない」と被害者が判断して、医師の診察を受けるのを疎かにしてしまうこともあるようです。
しかし、交通事故直後に医師の診察を受けないと、「症状の重篤化」、「損害賠償の減額」といった被害者にとって好ましくない結果になることがあります。
「痛みもないのに病院にいって大丈夫なのか?」と考える人もいるかもしれません。しかし、「ケガがあるかないか」は、医師の診察を受けてはじめて判断されるべきことです。身体に衝撃を感じたときには、事故直後に病院へ行き、医師の診察を受けて下さい。
今回は、「交通事故で痛みなどを感じていないとき」でも医師の診察を受けるべき理由、医師の診察を受けた後の対応について解説します。
このコラムの目次
1.自分の身体のために医師の診察を受ける
交通事故直後に病院へ行き医師の診察を受けるべき一番の理由は、「自分の身体を守るため」です。
交通事故で身体に「衝撃を感じた」、「打撲した」ときには、外傷や痛みなどの自覚症状がない場合でも、後日に重篤な症状が現れることもあります。
(1) 事故直後は「痛みを感じづらい」ことがある
交通事故が起きたときは、「通常の精神状態」でいられない人の方が多いでしょう。
人は、興奮状態にあるときには、体内に分泌されるホルモンの働きで「痛みを感じづらく」なることがあります。
実際にも、事故直後はなんともなかったが、病院について安心したことで緊張が解けたために、激痛に襲われるというケースも少なくありません。
(2) 「痛みを感じないケガ」をしていることも
交通事故でうけるケガには、「目立った外傷のないケガ」や「痛みを感じないケガ」も少なくありません。
たとえば、交通事故で頸部に「予期しない衝撃」を受けたときには、事故から数日経ってはじめて、「痛み」や「しびれ」といったむち打ち症の自覚症状が生じることは珍しくありません。
また、交通事故で頭部を強く打ち付けたときには、脳内出血を起こしている可能性もあります。
脳内出血は出血量が少ないうちは、痛みを感じない場合が少なくありません。むしろ、痛みを感じたときには、出血が進んでいる等の深刻な状況になっている場合もあります。
医学的な知識を十分に持ち合わせていない一般の方が、「素人判断」で「痛みがないから大丈夫」と決めつけてしまうことは非常に危険です。たとえば、脳自体には痛覚がないように、「痛みのあるなし」は「ケガのあるなしとイコールではない」ことがあります。
交通事故で身体に衝撃を受けたときには、必ず事故直後に医師の診察を受けましょう。この時にかかった費用も、相手方に請求することが可能です。
2.示談で不利にならないためにも通院は必要
医師の診察を受けることは、「交通事故によってケガをした」ことを客観的に明らかにすることでもあります。
交通事故のケガには、むち打ち症のように「見た目だけ」ではケガの有無を判断できないものも少なくありません。そのため、事故直後に医師の診察を受けなかったときには、示談交渉でも不利になることがあります。
(1) 医師の診断書がなければ人身事故にならない
被害者自身が「事故直後の通院を不要」と判断するような場合は、警察における交通事故の処理も「物損事故」となっている場合がほとんどといえます。
交通事故が物損事故として処理されたときには、相手方の保険会社から治療費の支払いを拒絶される場合があります。「物損事故から人身事故への切り替え」をするためには、警察に医師の診断書を提出する必要があります。
しかし、交通事故から1週間以上経過してしまったときには、人身事故への切り替えを警察に受理してもらえない場合もあります。
事故直後に受診できなかったときでも、できるだけ早く医師の診察を受けるべきです。
(2) 損害賠償が減額されることも
医師の診断書は、「交通事故によってケガをしたことが嘘ではない」ことを明らかにするためにとても重要です。特に、「交通事故によって」ケガをしたことを明らかにするためには、「事故直後」に診察を受けることが何よりも大切です。
たとえば、事故から半月以上経過してからはじめて医師の診察を受けたというときには、「症状と交通事故との因果関係」を認めてもらえない場合があります。交通事故との因果関係が否定されれば、相手方に治療費を請求することもできません。
また、事故直後に診察(治療)を受けなかったことが原因で、後遺障害が残ってしまうこともあり得ます。「事故直後にきちんと治療を受けていれば後遺障害が残ることはない」と考えられるときには、後遺障害に対する補償も受けることができません。
交通事故に遭ったときには「ケガがなかった」ことが最も望ましいのはいうまでもありません。しかし、事故直後に適切な診察・治療を受けていなかったときには、それに対する補償も認められない(減額される)可能性が高いことに注意が必要です。
3.医師の診察を受けたときの対処法
交通事故後に医師の診察を受けたときには、その後の対応もしっかり行うことが大切です。
示談交渉で十分な補償を受け取るためには、次の点に注意すべきといえます。
(1) 「診断書」を必ず作成してもらう
医師の診断の結果、「ケガがある」と認められるときには、必ず「診断書」を作成してもらいましょう。
診断書は、医師が発行する「証明書」として位置づけられ、非常に重要なものです。
(2) 「領収書」などは確実に保管する
交通事故のために病院に掛かった際には、支払った費用を相手方に損害賠償として請求することができます。
病院に支払った費用(治療費・診断書作成費用)があるときには、領収書を必ず発行してもらうだけでなく、診療報酬明細書などの病院が発行する書類もなくさず保管しておくようにしましょう。
また、事故直後にタクシーなどで病院に向かった場合には、タクシーの領収書をもらっておくことも忘れないようにしましょう。
(3) ケガがあったときには「人身事故」に切り替える
診察の結果、ケガをしたことが判明したときには、警察に「人身事故」として届け出ることを忘れないようにしましょう。
人身事故として届け出るためには、「医師の診断書」が必要です。人身事故として処理されないときには、警察による「実況見分調書」が作成されません。
実況見分調書がないときには、発生した交通事故の状況が不明確となってしまうこともあり、過失割合などで不利益を受けてしまうこともあります。
(4) ケガがなかった場合でも安心しきってはダメ
交通事故の被害に遭ってもケガをしなかったことはとても良いことです。しかし、交通事故によって大きな衝撃を身体が受けたことで、今後予期せぬ異変が起きないとも限りません。
交通事故の示談書には、「この契約書に定めるほか何らの債権債務が存しないことを相互に確認する」といった文言の「清算条項」が盛り込まれることが一般的です。無条件の清算条項を盛り込むと、万が一、事後に損害が発生したときに補償してもらえない可能性があります。
交通事故で身体に衝撃を受けたときには、「外傷がない」、「痛みがない」、「診察の結果異常がない」という場合でも、「示談後に、交通事故が原因と思われる予期していない損害が発生したとき」には、改めて協議するという一文を示談書に盛り込んでもらうようにしましょう。
4.まとめ
交通事故にあったときに最も好ましいのは、被害者にケガがないことです。しかし、ケガの有無を正しく判断するには、医学的な見地に基づく判断・検査結果による判断が必要です。
「その場では痛みがない」、「先を急ぐ用事がある」という理由で医師の診察を受けずに放置したことが原因で、症状が重篤化することもありえます。また、交通事故の示談の場面でも、事故直後の対応に問題があるときには、弁護士の力では解決できないこともあります。
交通事故に遭ったときには必ず医師の診察を受けて下さい。
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