交通事故の休業損害|給与所得者、主婦、無職者まで各職業別徹底解説
交通事故に遭い怪我をしてしまうと、止むを得ず仕事を休まなければならなくなったり、最悪の場合、今の仕事を辞めなければならなくなったりするかもしれません。
交通事故被害者にとっては大変心苦しいですが、そのような場合には、休業損害として加害者に賠償請求をすることができます。
では、この休業損害とはどのようなものでしょうか。また、休業損害はどのようにして計算するのでしょうか。さらに、休業損害の額は被害者の職業によりどのくらい異なるものなのでしょうか。
今回は、休業損害の概要と計算方法、そして職業ごとの賠償金額について詳しく説明します。
このコラムの目次
1.休業損害とは何か
休業損害とは、交通事故を原因とする被害者の収入の減少のうち、交通事故により受けた症状が固定(症状固定)するまでの療養の期間中に、傷害又は療養のために休業し、又は十分に稼動できなかったことから生じるものです。
つまり、休業損害は症状固定までの収入の減少を損害とするものです。
なお、症状固定とは、交通事故による受傷を治療しても症状がこれ以上は改善しない状態に至ることをいいます。
他方、症状固定以後の収入の減少については逸失利益という損害項目になります。
2.休業損害の計算方法
(1) 休業損害の計算式
上記のとおり、休業損害は症状固定までの被害者の収入の減少であることから、交通事故前の収入(基礎収入)に休業期間等を乗じた額(当然、休業期間に賃金等の支払があれば、それは控除されます)を休業損害として計算します。
【計算式】基礎収入の日額×交通事故日から症状固定日までの休業日数-休業中に賃金等の支払を受けた額
①基礎収入
交通事故前の収入を基礎として計算します。
なお、例えば後記の事業所得者で確定申告額以上の収入を基礎収入とする場合等、交通事故前の収入を越える額をもって休業損害と計算する場合には、そのような金額を採用すべき特別の事情を被害者が証明する必要があります。
②休業日数
交通事故日から症状固定日までの現実に休業した日数をもって計算します。
ただし、休業の事実があれば無条件で休業損害が認められるわけではなく、傷害の程度、内容、程度、治療内容等の諸事情を考慮して相当な休業の期間及び日数が認定されます。
特に、家事労働においては、被害者が療養中に部分的にでも制限を受けた範囲内で業務に従事できることもある場合には、実際に制限を受けた範囲で休業の事実を認めることになります。
さらに、傷害の内容、傷害の治癒の状況に応じては、傷害の治癒などの事情に応じて相当な休業率を段階的に下げているという逓減方式により算定されることもあります。
(2) 被害者の退職・解雇について
被害者が交通事故後に退職し又は解雇されたような場合には、交通事故時から退職又は解雇の各時点までの賃金等の収入の減少が休業損害として認められることは当然ですが、退職又は解雇の各時点以降、症状固定時点までの間の収入の減少についても、交通事故と相当因果関係にある範囲内であれば、休業損害として賠償の対象となります。
さらに、このような相当因果関係が認められない場合であっても、交通事故が退職又は解雇に何らかの影響を与えたような場合には、慰謝料の増額事由となることもあります。
(3) 自賠責保険の休業損害の計算式
自賠責保険の休業損害については定型化されており、基本的には日額5700円×実際に休業した日数(実休業日数)により算定します。
3.各職業別の休業損害
(1) 給与所得者
①基礎収入
給与所得者の休業損害は、交通事故前3か月の収入の金額の平均額を基礎収入とすることが多いです。これは保険会社に提出する定型的な休業損害証明書においても同様の取扱いをしています。
また、例えばペンション・海の家などの季節的又は月ごとの収入に大きな変動がある不確定要素の強い職種については、長期(半年~1年)の平均額を基礎収入とすることが多いです。
そして、基本給のみならず賞与・各種手当ても含めて算定します。また、休業期間中の昇給も考慮して基礎収入を算定します。
それらに伴い、休業に伴う賞与の不支給や昇給の機会を逸したことによる損失も休業損害として算定されます。
裁判例においては、交通事故当時タクシー運転手であった者の休業損害について、就業規則に従って休業期間中の定期昇給を認めた例があります。
②休業期間
給与所得者において、休業期間で問題となるのが、有給休暇を使用して通院入院をした場合です。
このような現実の収入減少には繋がらない場合であったとしても、有給休暇を別の機会に利用できなかったことを損害と考え、その有給使用権の価値を、有休を使用せずに休んだ収入の減少額と同額と考えるのです。
例えば、交通事故当時、土木建設会社の部長職にあった被害者の休業損害について、治療のために使用した年次有給休暇(63日分)は、本来ならば自分のために自由に使用できる日を事故による傷害のために欠勤せざるを得ない日に充てたとして、全てを休業期間に算入した裁判例があります。
(2) 事業所得者
①基礎収入
事業所得者の休業損害の基礎収入は、基本的には交通事故前年の確定申告所得額とします。
ただし、以下のような問題点があります。
・固定費について
事業所得者において、休業期間中の店舗家賃、従業員給料、光熱費などの固定費の支出を休業損害に含めることができるのかが問題となります。
この点について、これらの固定費の支出は、事業の維持及び存続のために必要でやむをえないものについては損害として認められます。
ただし、自営業者が重篤な傷害を負い、長期休業が予想される場合には、被害者にも損害の拡大を最小限に抑える義務があるとして、店舗などの一部解約を考える必要があるような場合には、これを行わなかったことによる店舗賃料を休業損害に含めないという判断がなされることがありますのでご留意ください。
裁判例においても、交通事故当時薬局を経営していた者の休業損害について、営業収入から売上原価を控除した184万円余に、固定費として損害保険料、減価償却費、地代家賃の合計33万円余を加算したものを基礎として算定された例があります。
・申告所得を超える基礎収入の主張について
事業所得者の基礎収入は申告所得額によって認定されます。これを超える基礎収入があると主張しても、その収入及び経費を確実に裏付ける資料を提出しない限り、なかなか認められることはありません。
他方、加害者側から被害者が主張する申告所得額が水増しであるとの主張がありますが、これについても同様に、なかなか認められることがないといえましょう。
ただし、申告内容があまりに不合理で、現実の収入を維持できないような事情が証明された場合には、賃金センサス(厚生労働省が作成する我が国の賃金の統計)等を基礎として相当な基礎収入額を算定されます。
(3) 会社役員
①基礎収入
会社役員の報酬は、おおむね労務提供の対価として受領する部分と実質的には利益配当として受領する部分で構成されていることが多く、休業損害の基礎収入となるのは労務提供の対価の部分です。
具体的には、賃金センサスを超えない部分については労務提供の対価として受領するものとして基礎収入を構成するとし、これを超える部分については基礎収入としないとされているものが多いです。
裁判例では、交通事故当時会社役員であった者の休業損害について、特殊車両の設計等の高度の能力を有し、かつ会社には代替できる者がおらず、その者が実務を担当していたことを考慮して、役員報酬全額を労務提供の対価として基礎収入として認められた例があります。
②休業期間
会社役員について使用人と兼務している場合には、使用人兼務部分の報酬については給与所得者と同様の問題が生じます。
(4) 家事従事者
①基礎収入
家事従事者とは、他人のために家事労働に従事する者のことをいいます。
かつては、家事従事者が休業した場合に損害の発生を認めないとする考え方もありましたが、現在では、賃金センサスの女子の学歴計・全年齢平均賃金を基礎収入とする運用で固まっています。
男性の家事従事者においても、賃金センサスの女子の学歴計・全年齢平均賃金を基礎収入とする運用がなされています。
ただし、家事労働については、被害者がある程度の傷害を受けた場合であったとしても、一定の範囲で家事労働を行っている場合が認められる場合には、実際に制限を受けた範囲内で休業期間を判断することがあります。
裁判例においても、休職中の主婦である長女夫婦と同居し、これらの者のために掃除、買い物、クリーニングの依頼及び受取り、夕食の下ごしらえ等の家事を補助していた交通事故の当時81歳の被害者(女性)の休業損害について、賃金センサスの女子の学歴計の70歳以上平均の4割を基礎収入とした事例があります。
②休業期間
上記のとおり、被害者がある程度の傷害を受けた場合であったとしても、一定の範囲で行っている場合が認められ、このような場合には、実際に制限を受けた範囲内で休業期間等を判断することがあり、先の裁判例においても入通院期間412日のうち、200日間を休業期間として認めた事例があります。
(5) 兼業者(典型的には共稼ぎ、パートタイマー及び内職者)
兼業者の場合には、現実収入と交通事故発生時の賃金センサスの女性の学歴計・全年齢平均賃金を比較して、いずれか高い方を採用します。
裁判例においても、新聞購読料の集金でつき7万8000円の収入を得ていた交通事故当時52歳の主婦について、賃金センサスの女性の学歴計・全年齢平均賃金を基礎収入として採用した事例があります。
(6) 無職者(失業者)
失業者が、交通事故により傷害を負ったとしても、通常は休業による減収が生じるという事態は発生しませんから、失業者には休業損害は認められません。
ただし、就職が内定しているとか、治療期間内に職を得る蓋然性が高い場合には休業損害が認められることがあります。
裁判例においても、定年退職後、雇用保険を受給中の交通事故当時60歳の被害者(男性)の休業損害について、雇用保険受給期間満了後は退職会社に再雇用される可能性があったとして休業損害が認められました。
ただし、その場合の休業損害については、賃金センサスの平均賃金よりも低い額しか認められない傾向にあります。
(7) 学生・生徒等
学生・生徒等が、交通事故により傷害を負ったとしても、通常は失業者と同様に休業による減収が生じるという事態は生じないことから、これらの者には休業損害は認められません。
ただし、アルバイトに従事していた場合及び就職が内定していたなどの事情で症状固定までの期間に就業する蓋然性が認められるような場合には、休業損害が認められます。
例えば、裁判例においては、交通事故当時高校生の休業損害については、交通事故当時のアルバイト収入を基礎として休業損害が認定されて例があります。
交通事故当時修士課程後期在学生の休業損害について、就職内定先からの給与推定額を基礎とする休業損害が認められた例もあります。
(8) 高齢者(年金受給者)
高齢者・年金受給者については基本的には休業損害の発生は認められません。
ただし、就労の蓋然性が証明された場合には、例外的に、休業損害が認められることがあります。
その際には、賃金センサス等を参照して算定することになります。
(9) 外国人
外国人の休業損害については、外国人の本邦での滞在許可により日本国籍を保有する者と同程度の休業損害を認めるべきかが異なります。
①いわゆる永住許可を有する外国人の場合
この場合には、日本国籍保有者と同じように休業損害を算定します。
②就労可能な滞在許可を有しており、現に本邦で就労していた場合
在留期間について日本での現実の収入を基礎として休業損害を算定します。
他方、在留期間経過後については、更新を受ける蓋然性を証明することができれば、更新後の期間についても日本での現実の収入を基礎とします。
しかし、当該蓋然性の証明ができなかった場合には、在留期間経過後は、想定される出国先(多くは母国)での収入を基礎として休業損害を算定します。
例えば、来日15年で交通事故当時東京支店の支配人の地位を有していた外国人の休業損害については、日本における実収入を基礎として算定された裁判例があります。
③就労可能な滞在許可を有していなかった場合で、日本で就労していなかった場合
例えば、観光ビザで本邦に入国したが、滞在中に交通事故にあったような場合です。このような場合には、母国での収入を基礎として休業損害を算定します。
④いわゆる不法滞在の場合(オーバーステイの場合も含む。)
日本における現実の収入を基礎として休業損害が算定されます。
裁判例においても、いわゆるオーバーステイで、就労していた外国人の交通事故に関する休業損害について、日本での実収入を基礎として算定した例があります。
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休業損害については以上のとおりですが、具体的な事例についての計算等については高度の法律知識が必要となります。法律の専門家である弁護士の助言を受けることを強くお勧めします。
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