証拠として利用可能?交通事故におけるドライブレコーダー映像
最近は、「あおり運転」のような危険運転に巻き込まれるトラブルに触れる機会が増えたこともあり、ドライブレコーダーを自動車に設置する人が増えています。ドライブレコーダーは高価だと思われがちですが、1万円前後の商品も充実してきています。
交通事故の示談交渉では、交通事故の発生状況について当事者間の認識に食い違いが生じることも珍しくありません。そのようなときにドライブレコーダーの映像は重要な証拠となる可能性があります。
しかし、ドライブレコーダーの映像は正しく用いなければ、逆にこちらを不利な状況に追い込んでしまうこともあります。
そこで、今回は、過失割合が争いとなっているときに、ドライブレコーダーを証拠として使うときに知っておきたいポイントについて解説します。
このコラムの目次
1.ドライブレコーダーを自動車に搭載するメリット
ドライブレコーダーを搭載することのメリットとしては、次のようなことが挙げられます。
- 交通事故の状況を明らかにできる場合がある
- 危険な運転に巻き込まれることを予防できる
- 盗難防止としても利用できる
(1) 交通事故の状況を映像で確認できる
ドライブレコーダーがあれば、撮影された画像によって交通事故が起きたときの状況を正しく把握できる場合があります。
交通事故の示談交渉では、当事者双方の過失割合が争いになることも珍しくありません。「こちらの過失が少ない」という客観的な証拠を示すことができれば、交渉を有利に進めることも可能となります。
また、いわゆる「当たり屋」などの被害に遭ったときにも、ドライブレコーダーの映像によってこちらに過失がないことを客観的に示せる場合もあるでしょう。
(2) 危険な運転から身を守る
最近では、「あおり運転」を原因とする事故・事件の話題に触れることが多くなりました。
ドライブレコーダーは、「他の車両の運転手に対する警告」としての役割もあります。
たとえば、車両の後方に「ドライブレコーダー搭載」というようなステッカーを貼っておくだけでも、他の車両の危険な運転を抑止できる可能性は高くなるといえます。
万が一、あおり運転などの被害に遭ったときには、被害を届け出る際の有力な証拠にもなります。
(3) 盗難・当て逃げ・車上荒らしにも有効
最近のドライブレコーダーには、車両が受けた衝撃に対応するタイプや、常時撮影型のものも増えてきました。
これらの機能の付いたドライブレコーダーを搭載していれば、盗難や当て逃げされた場合の対応や、盗難・いたずらの抑止にも役に立ちます。
駐車監視機能の付いていないドライブレコーダーであっても、「ドライブレコーダーを設置している車両」というだけでも、盗難やいたずらに遭う可能性は低くなるといえるでしょう。
車両盗難やいたずらを働く者は、「防犯意識の高い所有者の車両」には手を出したくないと考えるものです。
(4) 安全運転の意識が高まる
ドライブレコーダーは、他車の動向だけを記録しているわけではありません。他車の動きと同時に自車の動きも記録しています。
ドライブレコーダーの映像を活用すれば、交通事故を起こさないために、過去の自分の運転を振り返ることもできます。
また、「自分の運転が常に記録されている」と意識すれば、おのずと安全運転を心がける意識も高まるといえるでしょう。
2.ドライブレコーダーは証拠として有効なのか
交通事故の示談や裁判では、当事者の過失割合が争点となることが少なくありません。
示談交渉や訴訟においてドライブレコーダーの画像はどれだけの価値があるのでしょうか?
ドライブレコーダーの証拠としての有効性の問題には、「証拠能力」と「証拠価値」の2つのポイントがあります。
(1) ドライブレコーダーの証拠能力
「証拠能力」とは法律用語で、「その物の証拠としての適格性」のことです。「その証拠から事実を認定してはいけない」場合に、「証拠能力がない」というような言い方をします。
たとえば、刑事裁判においては、「自白と伝聞証拠の証拠能力」が制限されていることは知っている人もいるかもしれません。
しかし、民事訴訟においては、原則として証拠能力には制限がないので、ドライブレコーダーのような「改変可能なデジタル記録」であっても証拠として裁判に提出することは可能です。
(2) 証拠の採否
民事訴訟では証拠能力の制限はありませんが、当事者より提出された証拠のすべてが裁判官による取り調べの対象となるとは限りません。
当事者から提出された証拠を取り調べるかどうかは、裁判官が自由に決定できます。これを「証拠の採否」といいます。
たとえば、当事者が「重要な証拠」と思って提出した証拠であっても、裁判官が「不必要」と判断すれば取り調べなくても良いのです。
ドライブレコーダーの記録は、「交通事故の発生状況」を明らかにするために提出されるのが一般的です。しかし、交通事故の発生状況については、人身事故であれば警察が作成した「実況見分調書」があります。
したがって、裁判官が「実況見分調書を取り調べれば事故状況は十分に確認できる」と判断したときには、ドライブレコーダーの映像(データ)を証拠として提出しても取り調べの対象とならない場合もあります。
(3) ドライブレコーダーの証拠としての価値
一般の方がドライブレコーダーのメリットとして最も気になるのは、「ドライブレコーダーの映像」が過失割合の判断に「どの程度影響を与えるか」ということでしょう。
このように「証拠が裁判官の事実認定に与える影響力」のことを「証拠力」と呼びます。
ドライブレコーダーの証拠力は、当事者間で主張の食い違う争点や実際に撮影された映像の内容によります。たとえば、「信号違反の有無」、「運転中の携帯電話・スマホの使用の有無」、「スピード超過」、「方向指示(ウインカー)の有無」といった点が争点となっているときには、ドライブレコーダーの映像が事実認定を大きく左右することも少なくないでしょう。
これらの要素は、過失割合の「修正要素」として問題となることも多く、映像によって明確に確認できるものだからです。
他方で、ドライブレコーダーの映像では視認しづらい争点の場合や、ドライブレコーダーの映像が不鮮明な場合、ドライブレコーダーの日付が著しくずれている場合などには、証拠力があまりない場合もあります。
たとえば、古いタイプのドライブレコーダーではLEDタイプの信号機が映らない場合もあるので注意が必要でしょう。
3.ドライブレコーダーを証拠とする前に弁護士へ相談を
ドライブレコーダーの記録さえあれば「弁護士に依頼しなくても有利に示談を進められる」というわけではありません。ドライブレコーダーの映像は、「常に提出者に有利に働く証拠」とは限らないからです。
たとえば、「停止中に衝突された」と主張するためにドライブレコーダーの映像を確認したところ、「当事者が停止中といっているのは『直前停止』に過ぎない」ということは実際には珍しくありません(直前停止は過失割合との関係では修正要素になりません)。
また、専門家の目で映像を見たら、「逆にこちらの過失が指摘されかねない」場合も決して少なくありません。
相手方との示談の場面で、ドライブレコーダーの映像に基づいて何かしらの主張をするときには、「ドライブレコーダーの映像がある」と相手方に伝える前に「交通事故に精通した弁護士」に映像をみてもらい助言を受けておくことをお勧めします。
民事訴訟となった場合でも、こちらに不利な証拠は、原則としてこちらから提出する義務はありません。
しかし、民事訴訟においては、相手方が保有する証拠の提出を求める手続きもないわけではありません。場合によっては、裁判所からドライブレコーダーの映像を提出するよう命じられることもあることにも注意が必要です(文書提出命令)。
4.まとめ
交通事故の状況によっては、ドライブレコーダーは決定的な証拠となる場合があります。
他方で、ドライブレコーダーはこちらの車両の動きも記録していることに注意しなければなりません。ドライブレコーダーは、正しく使えば強力な武器となりますが、使い方を誤れば、逆に不利な状況に追い込まれてしまうこともあるからです。
その意味で、ドライブレコーダーは「何か起こったときの備え」というよりも「トラブルが起こらないようにするためのツール」としての役割の方が重要といえます。
しかし、交通事故に遭ったときにドライブレコーダーが無意味・無価値というわけではありません。ドライブレコーダーの映像があれば、相談・依頼を受けた弁護士も「交通事故の発生状況」をその目で直接確認し、依頼人と正しく共有することができるからです。
依頼人に対して「最善のアドバイス」をする上で事故の状況を伝聞ではなく直接視認できることは、とても重要なことです。ドライブレコーダーを設置している方が弁護士に相談・依頼されるときには、映像データの持参をお願いいたします。
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