後遺障害の認定は覆せる?認定等級に納得がいかない場合の異議申立
交通事故でケガをしたときには、治療では治すことのできない後遺障害が残ることがあります。
後遺障害に対する補償を受けるためには「後遺障害等級の認定」を受ける必要があります。しかし、実際には予想よりも低い等級が認定される場合や、後遺障害と認められない(非該当)ケースも少なくありません。
そこで、今回は、後遺障害等級認定の結果が予想より悪くなる理由や、結果に不満があるときの対処法について解説します。
このコラムの目次
1.後遺障害の認定の方法
まずは、どのような手続きで後遺障害が認定されるかについて確認しておきましょう。
「後遺障害」は、損害保険料率算出機構などの第三者機関による「審査」の結果に基づいて認定されます。
(1) 後遺障害を認定する手続き
後遺障害の認定は、「書面のみの審査」によって行われるので、「後遺障害の認定」のために、「別途審査機関による診断や検査」は実施されません。
したがって、後遺障害を適正に認定してもらうためには、申請の際に質・量の両面で十分な資料を提出することが重要です。
(2) 書類が足りなければ適正な認定結果とならない
後遺障害の等級認定には、それぞれの等級ごとに認定基準があります。実際に残った症状について適切な後遺障害等級の認定を受けるためには、それぞれの認定基準に見合った資料(医学的証拠)が提出されていなければなりません。
たとえば、交通事故によって頭部に強い衝撃を受けたことで脳に多大な損傷を生じたことで「咀嚼(そしゃく)・言語の機能を廃したとき」には、「後遺障害等級1級2号」となります。第1級2号を認めてもらうには、「咀嚼・言語の両方を廃している」ことが必要で、片方だけを廃したに過ぎないときには、第3級2号となります。
このケースにおいて、必要な検査の不実施や提出漏れなどが原因で、提出された資料からは「咀嚼障害があることは確認できる」が「言語障害があることを確認できない」というようなときには、実際には「両方の機能を失っていた」としても、第3級2号しか認定されないということになります。
(3) 後遺障害認定の現状
損害保険料率算出機構が発刊している「自動車保険の概況」という冊子によれば、後遺障害等級の認定率は、例年1割未満で推移しています。また、後遺傷害が認定された場合でも「被害者の希望(認識)よりも低い等級の認定」となってしまうこともあります。
一般の方が想像している以上に、「後遺障害の認定」はハードルが高いといえるでしょう。
【参考】自動車保険の概況(損害保険料率算出機構ウェブサイト)
2.後遺障害の認定に不満があるときの3つの対処法
「後遺障害認定の結果に満足がいかない」という被害者の方は実際にも少なくありません。泉総合法律事務所にも「実際に症状はあるのに非該当になった」、「自覚症状よりも軽い等級で認定された」といったご相談が多く持ち込まれます。
後遺障害等級認定の結果に不満があるときの対処法としては、「認定結果に異議を申立てる」、「自賠責保険・共済紛争処理機構の調停を利用する」、「民事訴訟を提起する」の3つの方法があります。
(1) 異議申立(再請求)
後遺障害等級認定の結果に不満があるときには、「異議申立(再請求)」をするのが最も一般的な対処法です。後遺障害等級認定に対する異議の申立は何度でも行うことができます。
異議の申立も当初の認定手続きと同様に書面で行います。保険会社から異議申立を取り寄せて、必要事項を記載し、資料を添えて、保険会社(事前認定の場合には相手方の任意保険会社、被害者請求の場合には相手方の自賠責保険会社)に提出します。
異議申立の審査は、損害保険料率算出機構の本部もしくは地区本部の審査会が行い、数ヶ月から半年程度かかります。
(2) 自賠責法上の紛争処理制度を利用する
自賠責保険・共済紛争処理機構が設置している「調停」は、自賠責保険会社との間でトラブルが生じたときに利用できる自賠責法上の指定紛争処理手続きです。
この調停は無料で利用することができます。申立書、添付資料を送付して手続きを行うことは、上の自賠責保険会社に対する異議申立(再請求)の場合と同様です。
ただし、この調停は1回限りしか利用できないほか、次の場合には利用することができません。
- 民事調停または民事訴訟に係属中であるとき又は当事者間の紛争が解決しているとき
- 他の相談機関または紛争処理機関で解決を申し出ている場合
- 不当な目的で申請したと認められる場合
- 正当な権利のない代理人が申請した場合
- 弁護士法第72条に違反する疑いのある場合
- 自賠責保険・共済から支払われる保険金・共済金等の支払額に影響がない場合(すでに自賠責保険の支払限度まで支払われているときなど)
- 自賠責保険・共済への請求がない場合あるいはいずれの契約もない場合
- その他、この調停で紛争処理を実施することが適当でない場合
(3) 民事訴訟の提起
いわゆる不服申立の手段を飛び越えて「民事訴訟」を提起するのも選択肢のひとつです。
被害者に生じている自覚症状の状況や、確保できた資料(証拠)との関係では、最も透明な手続きである民事訴訟で請求することが被害者にとって有利となる場合もあります。
民事訴訟を提起すれば、後遺障害等級に変化がない(認定結果それ自体は覆らない)としても、慰謝料・逸失利益の増額を期待できる場合もあります。
訴訟の場合には、個別の事情に応じて、それぞれの等級で認められる慰謝料額でも高い金額が認定される可能性があるからです。
3.後遺障害の認定を覆すことは可能か
後遺障害の等級認定が被害者にとって不満の残る結果となったときには、「希望する等級の認定をするために必要な資料が不足していた」ことが原因です。
すでに説明したように、後遺障害等級認定は、「書面のみの審査」なので、それぞれの等級認定に必要な資料が提出さされていないときには、「非該当(後遺障害なし)」もしくは「実際の症状よりも低い等級」でしか認定されません。
しかし、これから解説するようなケースでは、当初の認定手続きでは提出されなかった新たな資料を追加提出できる可能性があるので、異議申立をすることで「納得のいかない認定結果」を覆せる可能性があるといえます。
(1) 「事前認定」で後遺障害の認定を受けた場合
後遺障害の認定を申請する方法には、「事前認定」と「被害者請求」の2つの方法があります。
「事前認定」は、後遺障害認定に必要な資料の収集・提出を相手方の保険会社に任せる方法、「被害者請求」は、資料の収集・提出を被害者自身が行う方法のことです。
事前認定を利用すれば、被害者本人は手間暇・費用をかける必要がなくなります。
しかし、相手方の保険会社にとっては「後遺障害が認定されない方が利益となる」ため、必ずしも熱心に資料収集を行ってもらえない可能性もあります。そのため、事前認定でなされた後遺障害等級の認定は、不利な結果となる場合が少なくありません。
特に、レントゲンなどで症状(の原因)を確認できないむち打ち症の後遺症(しびれ・頭痛・倦怠感など)で後遺障害の認定を「事前認定」で受けることは、難しい場合が多いでしょう。
(2) 新たな資料を追加提出できる可能性がある場合
実際の症状に見合った後遺障害等級を認定してもらうためには、「必要な検査結果が提出されていること」が重要です。
たとえば、上で挙げた言語機能の例では、①口唇音(ま行、ぱ行、ば行、わ行、ふ)、②歯舌音(な行、た行、だ行、ら行、さ行、しゅ、ざ行、じゅ)、③口蓋音(か行、が行、や行、ひ、にゅ、ぎゅ、ん)、④咽頭音(は行)のうち、3つ以上の発音ができないことが「言語機能を廃した」と認められるための認定基準となります。
したがって、発音の可否を検査するテストが実施され、その結果が提出されていなければ、言語機能障害の認定を受けることはできません。
また、むち打ち症の場合でも、MRI検査やジャクソンテスト、スパーリングテストといった神経障害を確認する検査が実施されていないときには、これらの検査結果を提出することで、「非該当」もしくは「低い等級」となった後遺障害認定を覆せる場合があります。
(3) 診断書の記載内容が不十分・不適切な場合
診断書の記載内容が原因で「不利な後遺障害認定」となってしまうことは、実は珍しいことではありません。
診察を担当した医師が「後遺障害認定」に詳しくない場合には、「後遺障害認定を認めてもらうために必要な記載内容」が診断書に盛り込まれていない場合や、「事実とは異なる後遺障害認定に不利な記載内容」が診断書に書かれてしまっていることもよくあることです。
たとえば、「回復の見込みはある」とか「症状は常にみられるわけではない」というような記載があれば、後遺障害等級の認定にはかなり不利となります。医師は必ずしも「交通事故の専門家」ではないため、「症状を軽く書いた方が患者(被害者)も安心する」と思ってしまうことも実際にはあるのです。
このような場合には、診断書を作成した医師に対して、「後遺障害認定のために重要なポイント」を照会し、回答書を得て提出することで、後遺障害等級認定を覆せる可能性があります。
(4) 認定結果を覆すのが難しい場合
次のような場合には、異議申立などをしても認定結果を覆すのが難しいといえます。
- 交通事故との因果関係を証明できない場合
- 症状に継続性・一貫性がない場合
- すでに十分な検査が実施されその結果が提出されている場合
- 必要な治療を十分に受けていなかった場合
後遺障害等級認定は「交通事故を原因とする損害」に対する賠償額を定めるために行われるものです。したがって、症状の原因が既往症にある場合のように、交通事故によって生じたとはいえない症状は、「後遺障害」として認められません。
また、交通事故直後に医師の診察を受けていなかった場合にも、交通事故との因果関係を否定されてしまうことがあります。
【参考】医師の診察は絶対必要!交通事故直後には痛みがなくても病院へ
また、後遺障害の認定は「書類審査のみ」で行われるため、「新しい資料」がなければ、異議を申立てたとしても結果は変わりません。必要と思われる検査がすべて実施されているときには、再検査で異なる結果がでない限りは後遺障害認定を覆すのは難しいといえるでしょう。
これとは逆に、「必要な治療を受けていない」ときにも、後遺障害の認定は不利な結果となります。
一般的に、治療期間が短すぎる(半年未満)ときには、非該当となると言われています。必要な治療を疎かにしたことが原因で後遺障害が残ったと考えられるときには、「交通事故との因果関係」を否定されてしまいます。
後遺障害を適切に認定してもらうためには、医師の指示にしたがってしっかり通院し、自覚症状があるときには、診察の都度、正確にハッキリと医師に伝える(カルテなどに記録として残してもらう)ことが大切です。
4.後遺障害の認定に不満があるときは弁護士へ
後遺障害で納得のいかない認定結果となっても諦める必要はありません。しかし、認定結果を覆すためには、当初の認定結果が「非該当」、「低い等級」となった原因を正しく分析し、必要な対策を講じた上で異議を申立てる必要があります。
一般の方が自力で正しく分析し、必要な対策を見つけることは難しい場合が多いでしょう。
また、後遺障害等級の認定を覆すためには、医療者への働きかけも重要となることが少なくありません。
特に、医師に対しての診断書の修正依頼や、照会事項の作成は、被害者本人が行っても上手くいかない場合の方が多いでしょう。被害者が医師に働きかけることで、医師との関係が悪化することもありえます。
そのため、後遺障害認定の結果を覆すためには、必要な知識・経験・交渉スキルを十分に持ち合わせた弁護士のサポートを受けることが最も効果的といえます。
5.まとめ
後遺障害の認定結果に不満があるときには、諦めずにまず弁護士にご相談ください。
後遺障害の認定に精通した弁護士であれば、非該当や低い等級に認定された理由を正しく分析し、適切な等級認定を得られるための対応を検討することが可能です。
しかし、後遺障害の認定は、最初の認定手続きで適正な等級となることが最も好ましいといえます。後遺障害が残る可能性があるケガをしたときには、治療中の段階から弁護士に相談し、必要なサポートを受けておくことをおすすめします。
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