交通事故の示談交渉で失敗しないために被害者が知っておくべき全知識
運悪く交通事故の被害者になってしまい、加害者側から示談を持ち掛けられた場合、どのような点に注意して示談をしたらよいでしょうか。
示談は、和解契約であるため、「契約自由の原則」に従って、当事者同士で自由に締結できるものになります。「契約自由の原則」とは、人が社会生活を営むに際し結ぶ契約は、公の秩序や強行法規に反しない限り、当事者が自由に締結できるという民法の原則です。
このため、示談には法律による規則が存在せず、知識のないまま締結してしまうと、取り返しがつかなくなってしまうことがあります。
そこで、以下では、交通事故の被害者が、加害者側と示談する際に知っておくべきことを解説します。
このコラムの目次
1.交通事故の現場で示談しないこと
軽い接触事故であっても、交通事故を起こした自動車の運転者や乗務員は、最寄りの警察署の警察官に事故発生の報告をすることが法律で義務付けられています。
ところが、交通事故の現場で、加害者から「警察官に連絡すると、違反点数が取られて、免許停止になってしまうと困るので、連絡しないでください。5万円支払いますから。」などと持ち掛けられることがあります。
どんな状況であっても、こういった加害者からの申入れを受け入れることは絶対に控えてください。
示談は、書面を取り交わさなければ成立しないと考えている方が多いのですが、実は、加害者から示談の申入れがあり、被害者がこれを受け入れると回答しただけでも、つまり、口頭だけで成立するのです。
書面は、口頭で成立した示談を証明するものに過ぎません。そして、原則として、一度成立した示談を後日取り消すことはできません。
事故直後は興奮状態にあり、痛みを感じる感覚が麻痺していることもあるため、事故翌日以降に痛みを感じる場合があります。また、いざ自動車を修理してみたら、想定よりも修理費用がかかったという場合もあります。
それでも、交通事故の現場において5万円で示談してしまうと、加害者からそれ以上賠償してもらえないのです。
他にも加害者から、「保険に入っていないので、5万円で勘弁してもらえませんか」などと言われ、後日、回収するのは難しいと考えて応じてしまう方もいますが、加害者が保険に加入していない場合でも、弁護士であれば、適切な賠償金を加害者から回収するノウハウを持っていますので、交通事故の現場で示談することは絶対に控えてください。
2.痛みが残存しているにもかかわらず示談しないこと
加害者が任意の自動車保険に加入しているのであれば、通常、加害者から事故発生の報告を受けた任意保険の保険会社の担当者から連絡がきます。
被害者が、事故によって何らかの傷害を負った場合、医療機関への治療費は、加害者の加入する任意保険の保険会社から直接支払われることが多くなっています。
被害者は、医師の指示に従って通院を続けることになりますが、この間、加害者が加入する任意保険の保険会社から、通院の状況を尋ねられることが多いです。
なぜなら、前述したとおり、治療費は、加害者が加入する任意保険の保険会社から支払われるからです。
任意保険の保険会社としては、できる限り治療費を抑えたいという意向があり、また、慰謝料は通院期間に応じて算出されるので、これを抑えるためにも、「今月一杯で治療費の支払を打ち切ります」といった連絡をしてきます。
このような場合、被害者の方から、「任意保険の保険会社が治療は終了と言ったので、これ以上通院はできないと思い、やめました」というお話を聞くことが多いのですが、そのようなことはありません。
では、どのような対応をしたらよいのでしょうか?
実は、任意保険の保険会社から治療費の支払を打ち切られたとしても、治療が必要か否かを決めるのは、あくまで医師です。医師が通院を続けるよう指示するのであれば通院を続けることは可能です。
もっとも、その場合には、通院先の医療機関との交渉も必要になってくるので、早急に弁護士に相談したほうがよいでしょう。
そして、痛みが消失した、もしくは、医師から、これ以上治療を継続しても、痛みが改善する余地がないと告げられた際には、残存した痛みについて後遺障害の認定を申請した上で示談をすべきです。
後遺障害の認定についても、被害者の方自ら手続をとることは手間になりますので、弁護士にお願いするのがよいでしょう。
3.保険会社から提示がなされる金額は増額の余地があること
それでは、いざ示談をする場合、どのようなことに注意すればよいでしょうか。
必ず覚えておいていただきたいのは、加害者の加入する任意保険の保険会社から最初に提示される示談金の額は、一般的な示談金の額より低額になっているということです。
なぜなら、任意保険の保険会社としては、できる限り保険金の支出を抑えたいという思惑があるからです。
一般的な被害者に対する賠償金の項目に沿って説明をします。
(1) 治療費
治療費は、任意保険の保険会社から直接医療機関に支払われていますので、先に説明したような痛みが残っているのに通院をやめざるを得なかったといった事情がないのであれば、それほど気にする必要はありません。
(2) 入通院慰謝料、後遺障害慰謝料
他方で、交通事故によって入通院を余儀なくされたことに対する慰謝料は、自賠責保険基準、任意保険会社基準、裁判所基準があると言われており、この順に金額が高くなっていきます。そして、任意保険の保険会社は、一番低い自賠責保険基準に近い金額で提示をしてくることが多くなっています。
ところが、裁判所基準に従って計算した場合、任意保険の保険会社の提示金額の2倍近くなることもあるのです。
また、後遺障害が認定された場合に支払われる後遺障害慰謝料についても、先に説明したとおり、痛みが残っているにも関わらず、治療を終了し、後遺障害の認定を受けなかったとすると、支払を受けることができません。
さらに、仮に後遺障害の認定を受けたとしても、後遺障害慰謝料にも自賠責保険基準と裁判所基準があり、任意保険の保険会社はより金額の低い自賠責保険基準で提示してきます。
(3) 休業損害
休業損害は、交通事故による傷害の治療のため休業を余儀なくされた場合に支払われるものです。
サラリーマンの方は、通院のために会社をお休みした場合はもちろん、早退した場合や有給休暇を取得した場合にも請求することができます。しかし、任意保険の保険会社はそのことを知らないので、被害者の方から申告する必要があります。
また、専業主婦の方であっても、交通事故による傷害の治療のため、不十分な家事労働を余儀なくされた場合は休業損害が認められていますが、任意保険の保険会社からの提案には、記載すらされていないこともあります。
休業損害の算定方法には様々な考え方があるので、最大化するためには弁護士に委任して請求するのがよいでしょう。
(4) 逸失利益
逸失利益とは、端的に言うと、後遺障害が残ったことにより生じた収入減です。これは、基本的に事故に遭った年の前年度の収入を前提に算出されるのです。
例えば、前年度に育児休暇を取得していた関係で、その年だけ年収が低かった場合、任意保険の保険会社はそういった個々の事情は考慮せずに提案してくるので注意が必要です。
4.費目に漏れがないか確認すること
一般的な被害者に対する賠償金の費目を説明しましたが、症状が重篤な場合、これらに加えて、特別な費目を請求する余地があります。
例えば、被害者をご家族が見舞った際の交通費や、付き添った際の付添費などが考えられます。
また、交通事故による傷害で、脚が不自由になった場合、自宅改造費や装具を購入する費用も考えられます。
こういった費目は、被害者の方から積極的に請求しなければ、任意保険の保険会社から支払を提案してくることはあまりありません。
もっとも、これが賠償の対象になるのか?ということは専門家でないと分からないことが多いと思います。
症状が重篤な場合は、特に弁護士に委任するのがよいでしょう。
5.時効に注意
交通事故による損害の賠償を請求する権利は、原則として、事故の日から3年で時効を迎えます。
事故の日から3年を経過すると、加害者は、時効を援用し、賠償金を支払わなくなるので、注意してください。
もっとも、単純に事故の日から3年を経過してしまったとしても、加害者の交渉態度によっては、請求することができる場合もありますので、そのような場合には弁護士にご相談ください。
6.交通事故の示談交渉なら泉総合法律事務所へ
このように、交通事故における示談においては、注意すべき事項が多数存在します。
事故に遭い大変なショックを受けている中、怪我の治療をしながらこのような交渉を進めていくのは大きなストレスになるでしょう。
交通事故の示談交渉は、弁護士に一任することができます。弁護士なら、ただ単に相手方と話し合うだけでなく、被害者の方が正当な慰謝料を受け取れるために粘り強く交渉することも可能です。
交通事故の示談交渉でお悩みの方は、お早めに泉総合法律事務所へご相談下さい。
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